蓬生 その十二

 門の左右の扉もみな傾いて倒れていたので、大弐の北の方の供人が門番の男を手伝って、大騒ぎの末、ようやく開けた。陶淵明の詩にもあるように、こんな廃れた淋しい家にも、必ず草を踏み分けた人の足跡のついた三つの小道くらいはあるはずだが、いったいどこにあるのだろう、とたどっていく。ようやく南向きのほうに格子をあげた一間があったので、そこに車を寄せると、末摘花は随分と不躾なことをする人だと、対応に当惑しながらも、呆れるほどすすけた几帳を差し出して、そこから侍従が対応に出るのだった。


 侍従は年来の苦労で、顔などはすっかりやつれているものの、それでもやはりどことなく垢抜けた奥ゆかしい風情で、もったいない話だが、いっそ末摘花と取り替えたいくらいに見えた。


 大弐の北の方は、



「旅立とうと思いながら、末摘花のおいたわしい様子を見捨てていきかねるのですが、今日は侍従の迎えにきました。情けないことに末摘花は私をすっかり疎遠にして、自分はほんの少しも私のほうにはお越しくださいませんけれど、せめてこの侍従だけでもお暇をいただきたいと思いまして。それにしてもどうしてまあ、こんなおいたわしい様子でお過ごしでいらっしゃることやら」



 と言って、普通ならここで泣きもするところだろう。だが、大弐の北の方は、夫の栄転の任国に思いをはせて、とても満足そうにしているのだった。

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