澪標 その二十四

 そういえば、あの伊勢の斎宮も、御代替わりで替わったので、六条御息所も一緒に京に帰ってきた。光源氏はその六条御息所を昔に変わらず、何くれと見舞った。それはもう世にまたとないほどの心尽くしをしたが、六条御息所のほうは、



「昔でさえあんな冷淡だった光源氏さまのお心なのだから、今更になってかえって後悔するような憂き目は見たくない」



 と、ふっつりあきらめている。その気持ちが伝わるので、光源氏もことさら自分から六条御息所の邸に見舞うことは遠慮した。


 強いて六条御息所の心を動かして、なびかせたとしても、自分の心ながら、この先、どう変わるかも知らず、とかく関わりあいになるような忍び歩きなども、今では身分柄面倒に思っているので、無理な首尾をしてまでもという態度ではないのだった。ただ斎宮だけは、どんなに美しく成長したことか、と会ってみたく思っている。


 六条御息所は、今もやはりあの六条の旧邸を、とても立派に修理したので、優雅な暮らしぶりをしている。


 風雅な趣味は昔に変わりなく、美しい女房たちも多く、風流な貴公子たちの寄り合うところになっていた。六条御息所はもの寂しいようだが、心の慰む暮らしぶりだった。


 そのうち急に重い病気に罹り、何となくだがとても心細く思ったので、仏事を厭う斎宮御所で長い年月暮らしてきたことも、恐ろしく不安に思い、出家してしまった。


 光源氏はそれを聞き、もはや色恋という筋ではないけれど、やはり、何かの折の話し相手には何よりの人だと思っていたので、出家してしまったことを、残念に思って、驚きながら六条の邸に駆けつけた。

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