澪標 その二十三

 あの明石の君は、光源氏の一行が通り過ぎるのを待ち、その翌日が日柄もよかったので、幣帛を奉納し、身分相応の数々の願いなども、ともかく果たしたのだった。その後明石ではかえってまた物思いがつのって、明け暮れ、あまりの身分違いの身の上を思い嘆いているのだった。


 今ごろは京に着いただろうか、と思う日数も経たないうちに、光源氏からの使いが着いた。近いうちに京にお迎えするという知らせだった。とても頼もしそうに、人並みに扱っている言葉だが、



「さあ、どうしたものか、今更この明石の浦から離れて、中空に漂うようなどちらつかずの心細いことになるのではないだろうか」



 と、明石の君は悩み迷った。父の入道も、さてとなると、光源氏の言うままに手放すのは、気がかりで、そうかといって、こんな片田舎に、母と娘を埋もれたまま過ごさせることを考えると、かえって、光源氏に逢わなかった昔の年頃よりも、今の方が心配の絶え間がなかった。


 明石の君は、何かにつけても不安で、上京の決心がつきかねることを、便りに申し上げた。

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