明石 その五
ようやく風がおさまり、雨脚もおとろえ、空には星も見えてきた。
光源氏が移った御座所があまりにも粗末で畏れ多いので、元の寝殿に移し返そうとするのだが、落雷に焼け残った辺りも気味が悪く思うし、あれほど大勢の人々が踏み荒らしたので、御簾などもみな、風に吹き飛ばされてしまっていた。
ここでひとまず夜を明かしてから移そうと、人々は暗い中をうろうろとしていた。そのとき、光源氏は経をあげながら、前後の事を色々と考えたが、とても気持ちを静めることができなかった。
月が昇って、潮がつい近くまで満ちてきた波跡もはっきり見えた。高潮の名残りがまだ打ち寄せていて、月光のもとに荒々しく見えるのを、光源氏は柴の戸を押し開けて見ていた。
この界隈には、ものの道理をわきまえ、来し方行く末のことも洞察し、この天変地異の意味をあれこれとはっきり悟る人もなかった。ただ身分の低い漁師たちばかりが、貴いお方がいるところだ、というので集まってきて、光源氏が聞いてもさっぱりわけのわからないことを方言で喋りあっているのが、光源氏は異様に聞こえるのだが、追い払うこともできない。
「この風が、まだしばらく止まなかったら、津波が襲ってきて、何もかもさらわれてしまっただろう。神様のご加護はたいしたものだ」
と言うのを聞くにつけても、心細さは言葉にもならなかった。
海にます神の助けにかからずは
潮の八百会にさすらへなまし
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