須磨 その十三

 光源氏は二条の院で、すべての身辺整理をした。親しく仕えて時勢の波にもなびかない、忠実な家臣たちだけに、後々の邸の事務一切を処理させるため、上下の役目を決めていった。


 須磨にお供するものは、それとは別に選んだ。


 あの須磨の山里で使用する調度品は、ぜひ必要な品々だけを、それも飾り気のない簡素なものにし、またしかるべき書籍、白氏文集などを入れた箱、そのほかに琴を一つだけ持った。たくさんの調度や華やかな衣装などは一切持たず、賤しい山里の人のようにした。


 光源氏に仕えている女房たちをはじめ、すべてのことはみな、西の対の紫の上に管理を任せた。


 光源氏の領地の荘園や牧場をはじめ、その他所有権のあるところどころの領地の地券などもすべて、紫の上に譲り渡す。そのほかの倉の建ち並んだ御倉所や、金銀、絹綾を貯えている納殿のことまで、前からしっかりものだと信用している少納言の乳母にまかせ、腹心の家司たちを相談相手につけて、財産の管理上の事務一切をとらせるように計らった。


 これまで東の対で光源氏の女房として仕えていた中務や中将などという、お情けを受けていた女房たちは、いつも薄情な扱いを受けて恨めしく思いながらも、側でお目にかかれた間は、心も慰められたけれど、これからはどんなふうにして暮らしていったらいいのか、と心細く思うのだったが、光源氏は、



「命があって、また都に帰る日もあるだろう。それを信じて待とうと思う人は、西の対に来て、紫の上に仕えるがいい」



 と言い、上から下まですべての女房たちを、西の対にやった。


 もとの左大臣家に仕えている夕霧の乳母たちへも、また花散里へも、趣のある贈り物はもとより、日用に使う品々にまで行き届いた気配りをしてやるのだった。

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