賢木 その七
光源氏は、斎宮の返歌が大人びているのを、微笑みながら見ていた。年のほどよりは風情をわかっているのではないか、と心が動いた。
こんなふうに普通とは違った面倒な事情のある恋に、必ず惹かれる心の癖があり、
「いくらでも拝見できたはずの、斎宮の幼い頃の姿を見ないでしまったのは残念なことだった。しかし、世の中は不定だから、またいつかお目にかかることもあるだろう」
などと考えた。
奥ゆかしい優雅な趣味で定評のある二人なので、その旅立ちの装いを見物しようとその日は物見車が随分と多く出ていた。午後三時過ぎには、斎宮は宮中へ参内した。六条御息所は御輿に乗るにつけても、今は亡き父大臣が后の位にあげようと望んで、大切に育てられたのに、境遇がうって変わり、この年になってから、ふたたび宮中を見るのかと思うと、何もかも無性に悲しく感じられた。十六のときに亡き東宮のもとにいき、二十のとき、東宮は亡くなられ、三十の今、こうしてまた九重の宮中を見るのだった。
そのかみを今日はかけじと忍ぶれど
心のうちにものぞ悲しき
斎宮は十四になっていた。生まれつき可愛いのを、このうえなく着飾っているので、不吉なまでに美しく見えた。帝は並々でなく心を動かし、儀式の別れの櫛をさしてあげるときは、たまらなく胸がせまり、涙を落とすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます