葵 その三十九
昼頃、光源氏は西の対に来て、
「気分が悪いようだけど、どうしたの? 今日は碁も打たないからつまらないね」
と言いながら帳台の内を覗き込むので、紫の上はますます召物をひき被って、寝てしまう。
女房たちは引き下がってひかえていたので、光源氏は紫の上の側に寄って、
「どうしてこんなふうにひどい仕打ちをするの? 思いのほかに冷たい人だったのですね。そんなふうだと、女房たちも、どんなに変に思うでしょうか」
と言って、夜具を引きのき、紫の上は汗びっしょりになって、額髪もひどく濡れていた。
「おお、いけない。これは本当に大変なことですよ」
と言っては、何やかやと色々機嫌をとるのだが、紫の上は心から、本当にひどい人だと思っているので、一言も返事しなかった。
「いいよ、いいよ。もう決して会わないから。とんだ恥をかいたものだ」
などと恨み、硯箱を開けて見たが、返事がない。何と子供っぽい態度だろう、といっそう可愛らしく感じた。
その日は終日、帳台の中に入り込んで、様々な言葉を尽くして慰めた。しかし、一向に機嫌が直らない紫の上の様子が、光源氏にはますますいとしくてならないのだった。
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