葵 その三十七
二条の院では、邸中の部屋を磨き清めて、男も女もうち揃って待っていた。主だった女房たちは、みな里から参上して、われもわれもと衣装を着飾り、化粧をこしらえているのを見るにつけても、あの左大臣家で、女房たちがみな悲しみに沈みきって暗い表情で居並んでいた光景を、光源氏はあわれに思い出すのだった。
召物を着替え、西の対に来た。冬の衣替えをした部屋の調度や飾り付けが、すっきりと明るくできていて、美しい若女房や女童たちのみなりも綺麗に整っていた。乳母の少納言の采配ぶりは、全てに行き届いていて奥ゆかしいと、光源氏は認めるのだった。
紫の上は、たいそう可愛らしく綺麗に着飾っていた。
「長いこと逢わなかった間に、すっかり大人らしくなりましたね」
と小さな几帳の帷子を引き上げて見ると、紫の上は横を向いて恥ずかしそうにする姿は、非の打ち所がなかった。灯火に照らされた横顔や顔つきなど、何と、あの心の限りを尽くしてお慕いしている人に、そっくりになっていくことだろう。それを見るにつけても、この上なく嬉しい思いになるのだった。
近くに寄り添って、逢えなくて気がかりだった間のことなど、少し話して、
「この間中からのお話をゆっくりさし上げたいのだけれど、あまり縁起が良くないので、しばらく他所で休息してからここに参りましょう。これからは、もうずっといつでも一緒ですから、今にうるさいと思うかもしれませんね」
などと話しているのを、乳母の少納言は嬉しく聞いているものの、やはり一抹の不安を拭い去ることはできなかった。
光源氏の内緒の通いどころには、身分の高い女君たちが多勢いるので、いつまた面倒な人が葵の上に入れ替わって正妻として出ていかないとも限らないなど、気がもめるのも、憎らしい女心の気の廻しかただった。
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