葵 その二十八
亡き葵の上の七日毎の法事などはすんだが、四十九日の忌明けまではまだ引き続き、光源氏は左大臣家に篭もっている。馴れない一人暮らしを気の毒に思って、三位になった頭の中将は、いつも訪ねてくる。世間話などに、真面目な話や、また例のような色好みな話なども耳に入れながら慰めた。
中でもあの源典侍のことが、何かと言えば今にも笑いの種になるようだった。光源氏は、
「やれ可哀想に、お祖母上さまのことを、あんまり軽蔑なさるな」
とたしなめるものの、いつも面白がっているようだった。
あの常陸の宮での、十六夜のおぼろな月影にぼんやりとしか見えなかった秋の夜のことや、そのほかさまざまな色恋沙汰を、お互い残らずすっぱ抜いた。挙句の果てには、無常な浮世のあわれにははかないことなどを語りついで、泣いたりしたのだった。
時雨が降り、もの淋しい夕暮れに、頭の中将は、鈍色の喪服の直衣や指貫を、少し色薄めたものに衣替えして、見るからに男らしくすっきりと、立派な姿で光源氏の部屋を訪ねた。
光源氏は西の妻戸の前の高覧に寄りかかって、霜枯れの庭を眺めているときだった。
風が荒々しく吹き、時雨がさっと降りそそいだ時、涙も時雨と競ってこぼれ落ちるかと思い、
〈雨となり雲とやなりにけむ、今は知らず〉
と葵の上のことを漢詩に託して、独り言を呟きながら、頬杖をついていた。その様子に、
「もし自分が女だったら、この方に先立って死ぬと、魂がきっと側に留まってしまうだろう」
と、頭の中将は色めかしい気持ちになり、つい、じっと顔をみつめて側に座るのだった。
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