葵 その二十五

 光源氏、二条の院にさえ、ほんのしばらくも帰らず、しみじみと心から葵の上を偲び嘆いて、仏前のお勤めもまめまめしくやりながら、明け暮らしている。


 光源氏が通っている女君たちには、手紙だけ差し上げた。


 あの六条御息所は、斎宮が初斎院となった宮中の左衛門の司に入ったので、ひとしお厳しい潔斎にかこつけて、ふっつり文通もしなかった。


 光源氏はつくづく疎ましいと思い知っていたはずの男女の仲も、今は全て厭わしく思い、こういう絆になる幼い夕霧が生まれていなかったら、かねて願っていたように、世を捨てて出家でもしていただろうに、と思う。それにつけても、まず紫の上が、淋しそうに暮らしている姿が、ふっと思いだされるのだった。


 夜は帳台の中に一人で寝ているので、宿直の女房たちは帳台の近くを取り囲んで控えているものの、何となく周りが淋しくて、ただでさえ淋しい秋に亡くなるとはと、葵の上が恋しく、なかなか眠ることができなかった。声の美しい僧ばかり選りすぐって側に置き、念仏をあげさせる暁方などは、あとりわけ悲しみが堪えがたく、断腸の思いがするのだった。

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