葵 その二十五
光源氏、二条の院にさえ、ほんのしばらくも帰らず、しみじみと心から葵の上を偲び嘆いて、仏前のお勤めもまめまめしくやりながら、明け暮らしている。
光源氏が通っている女君たちには、手紙だけ差し上げた。
あの六条御息所は、斎宮が初斎院となった宮中の左衛門の司に入ったので、ひとしお厳しい潔斎にかこつけて、ふっつり文通もしなかった。
光源氏はつくづく疎ましいと思い知っていたはずの男女の仲も、今は全て厭わしく思い、こういう絆になる幼い夕霧が生まれていなかったら、かねて願っていたように、世を捨てて出家でもしていただろうに、と思う。それにつけても、まず紫の上が、淋しそうに暮らしている姿が、ふっと思いだされるのだった。
夜は帳台の中に一人で寝ているので、宿直の女房たちは帳台の近くを取り囲んで控えているものの、何となく周りが淋しくて、ただでさえ淋しい秋に亡くなるとはと、葵の上が恋しく、なかなか眠ることができなかった。声の美しい僧ばかり選りすぐって側に置き、念仏をあげさせる暁方などは、あとりわけ悲しみが堪えがたく、断腸の思いがするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます