葵 その四

 その頃、賀茂の斎院もやめたので、弘徽殿の女御が生んだ女三の宮が、新しい斎院になった。桐壷院も弘徽殿の女御もとりわけ大切に寵愛した姫君なので、神に仕える特別な身の上に変わるのを、とても辛く思ったが、他に適当な姫宮もいないのだった。


 斎院になる儀式なども、いつもの規定どおりの神事なのだけれども、それはもう盛大に催された。


 賀茂の祭りのときには、規定の行事のほかに、更に付け加えられたことが多く、この上なく立派な見物となった。これも新斎院の人徳のものと思われた。御禊の日には、供奉の上達部などは定められた人数だったが、そのお供たちも声望の高い、容姿の美しい人ばかりを選りすぐり、下重ねの色から、表の袴の模様、馬の鞍まで、みな見事に調えられていた。


 特別の勅命で、光源氏も御奉仕する。この通りを見ようと、人々はかねてから見物の車の支度に気を配っているのだった。


 一条の大路は立錐の余地もなく、恐ろしいほど混雑してにぎわっている。道の両側の所々の桟敷には、それぞれ思い思いの趣向を凝らして飾り付けをして、簾からこぼれた女房たちの出だし衣の袖口の色合いさえ、素晴らしい見物だった。

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