花宴 その四

 光源氏は常になく深酔いしていたのだろうか、このまま朧月夜をはなしてしまうのはいかにも惜しい上に、朧月夜も初々しくなよやかで、手厳しく拒み通すすべも知らないようだ。光源氏はそんな朧月夜をしみじみと可愛いと思い、愛撫をつくしているうちに、夜が明けてきたので、心がせかされた。まして朧月夜は、このようなことになって思い乱れている様子だ。



「お願いだからやはり、どなたなのか教えてください。名前も知らないのでは便りのしようもありません。まさかこれっきりにしようとは思っていらっしゃらないでしょうね」



 と光源氏が言うと、




 うき身にやがて消えなば尋ねても

 草の原をば問はじとや思ふ




「ご迷惑にお思いにならないならば、どうして私が遠慮するでしょうか。もしかして私を騙すつもりでしょうか」



 と言い終わらないうちに、女房たちが起きだしてざわめいてきた。


 弘徽殿の女御を迎えに行ったり帰ったりする女房たちの気配が、忙しそうにしてきたので、ひどく困って今はもうこれまで、とふたりの扇だけを、逢った証拠に交換しあって、光源氏はそこを出て行った。


 光源氏の部屋の桐壺では、女房たちが大勢つかえていて、もう目を覚ましている者もいる。こうした光源氏の朝帰りを、



「よくもまあ、熱心な忍び歩きですこと」



 と突き合いながら、そら寝をしているのだった。

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