花宴 その二

 その後、上達部たちが皆、入り乱れて順序もなく舞ったけれども、夜になってからは誰が上手なのか、区別もつかなかった。


 詩を披講するときにも、光源氏の作品はあまりに立派なので、講師も一気に読み終えることができず、一句ごとに読み上げては褒め称えた。それを聞いて、その道の博士たちも心から感服しきっている。


 帝はこうした晴れの催しの際にも、まず光源氏を一座の光としているので、今日の詩の席の光源氏をどうしておろそかにするだろうか。


 藤壺の宮は光源氏に目がとまるにつけても、弘徽殿の女御が光源氏を無性に憎むのも不思議に思い、自分がこうして光源氏に惹かれるのも心から悲しくなるのだった。




 おほかたに花の姿を見ましかば

 露も心のおかれましやは




 この歌は藤壺の宮の心のうちだけでひそかに詠んだはずなのに、どうして世間に伝わったのだろうか。


 夜が更けてから、花の宴は全て終わった。


 上達部もそれぞれ退出し、藤壺の宮や東宮も帰っていった。あたりがひっそりと静まり返ったところに、月がそれはそれは明るくさしのぼった風情が言いようもなく美しくて、光源氏はほろ酔い気分に、この良夜の月を見過ごしにくく思う。清涼殿の宿直の人々も皆寝静まったのを幸い、こんな思いがけないときに、もしやあの人に会う首尾のよし隙ではないだろうか、とたまらない思いで藤壺のあたりをひそかにうかがい歩いた。いつも手引きをしてくれる王命婦の部屋の扉口もしっかりと閉ざされている。ため息をつきながら、とてもこのままではあきらめきれない、と弘徽殿の細殿に立ち寄った。そこは北から三番目の戸口が開いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る