紅葉賀 その四

 幼い紫の上は、光源氏に馴染むにつれて、性質も器量も申し分なく、無邪気につきまとう。


 しばらくの間は邸宅の女房たちも紫の上の素性を伏せておこうと思い、離れた対の屋に住まわせていた。部屋の飾りなど、この上なく立派にして、自分も明け暮れてそこにおり、何かと教える。手本を書いて習字の手習いをさせたりしながら、まるで他所にいた自分の娘を引き取ったような気持ちだった。


 何もかも不自由もないように仕えさせるのを、惟光以外の家来は不思議に思うばかりだった。


 紫の上の父、兵部卿の宮もこのことはまったく知らない。紫の上はやはり時々思い出す折には、しきりに亡き尼を恋い慕った。光源氏がいる間は気が紛れているのだが、夜などは、光源氏がこちらに泊まるのは稀で、あちらこちらに通うのに忙しく、日が暮れると出かけてしまう。紫の上はそんな時、後を慕って追うこともある。光源氏はそんな紫の上をとても可愛く思うのだった。


 光源氏が二、三日、宮中に詰めることになったり、左大臣家に滞在するときなどは、紫の上はすっかり塞ぎこんでいるので、光源氏は可哀想に思い、母のない子を持ったような気持ちがして、夜の出歩きも落ち着かない気分になる。


 北山の僧都は、紫の上のこうした様子を聞き、不思議に思いながらも、やはり嬉しく思った。亡き尼の法事などを僧都がするときも、光源氏は立派な供物を届けるのだった。

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