末摘花 その十三

 夜が明けたようなので、自分で格子を開け、庭の植え込みの雪を見た。こんな朝、末摘花を振り捨てて帰るのも可哀想だと思ったので、



「あの空の美しい色を見てみなさい。どうしていつまでもかたくなに打ち解けてくれないのでしょうね」



 と恨み言を言う。


 まだ外はほの暗かったが、雪明りに映えて、光源氏が若々しく見えるのを、老女たちは笑みこぼれて仰ぎ見た。



「早く出てきなさい。そんなふうではあまりに無愛想にみえてよくありません。女は素直なのがなによりですよ」



 と女房が教えると、末摘花は格別内気でも、さすがに鷹揚で、人の言うことには逆らわない性格なので、何かと身づくろいしてからにじり出てきた。


 光源氏は末摘花を見ない振りをしながら外のほうを眺めているが、横目でしきりに確認する。さて、どうだろうか。こうして打ち解けたときにみて少しでも良く見えるようだったらどんなに嬉しいことだろう、と考えるのも、身勝手なことというものだ。


 何よりもまず、座高がいやに高く、胴長なのが目に映った。やはり思った通りだ、と胸がつぶれる気持ちだった。その次に、ああ、みっともない、と思ったのは鼻だった。ふとそこに目がとまってしまう。あきれるほどに高く伸びている上に、先のほうが少し垂れ、赤く色づいているのが、ことのほか嫌な感じだった。


 顔色は雪も恥ずかしいほどに白く、青みを帯びている。額はむやみにおでこが広く、それでもまだ顔の下の方が長く見えるのは、たぶん恐ろしく長い顔立ちだからだろう。痩せていることといったら、気の毒なほど骨ばっていて、肩のあたりなどは、痛そうなほどごつごつしているのが、着物の上からでもありありと見える。


 光源氏はどうして見てしまったのだろう、と思いながら末摘花があまりにも珍しい器量なので、やはりつい目がそちらにいってしまう。

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