夕顔 その九

 夜になった。光源氏と夕顔が眠っていると、枕元にぞっとするほど美しい女が座っていた。



「私が心から素晴らしいお方とお慕いしていますのに、私を捨ててこんな女に夢中になる。あんまりです。心外で口惜しくてたまりません」



 光源氏は夕顔を必死に起こそうとする。その様子をこの不気味な女はじっと見つめていた。


 夕顔はうなされながらも目を覚ますと、部屋の明かりがふっと消えてしまった。女房の右近も起こしたが、右近も脅えて光源氏のそばににじり寄ってくるだけである。


 光源氏は右近に



「廊下に出て他のものを呼びなさい。明かりを持ってきてもらいましょう」



 と言った。しかし、



「無理です。暗くて身動きができません」


「何を子供っぽいことを」



 光源氏は笑いながら手を叩いて他のものを呼んだ。山彦のように音が反響し、とても不気味に響き渡る。しかし、誰もその音に気づかないらしく、一人として来る気配がない。


 しかも、夕顔がわなわなと震えだし、汗もひどい。まるで正気を失ったように見えた。


 光源氏も夕顔が脅えやすい性格だと気づき、手を叩くのをやめた。



「私が人を起こしてこよう。手を叩くと山彦がうるさくてたまらない。右近はここで夕顔のそばについてやってくれ」



 光源氏はそういって廊下に出ると、何と、廊下の明かりも消えていた。


 風が少し吹いている。起きているものの気配はなく、皆寝静まっているようだ。


 光源氏が他のものを呼ぶと、一人が起きて近寄ってきた。



「明かりをもってこい。警護のものは弓の弦を鳴らし、絶えず声をあげるように命じろ。惟光も来ていたな。惟光はどうした」


「先ほどまでいましたが、明け方向かい伺うといって退出しました」



 このものはそういうと



「火の用心、火の用心」



 といいながら他のものを起こしにいった。

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