駄文

  その月を『魔の六月』と呼んだ。

  誰もが蒸し返したくない事件が起きたのだ。

  ある中学校の校内で、少年少女合わせて五人が重軽傷を負う、

  にわかには信じがたい内容の事件だ。

  一件に関わった者たちはもう成人し、その所存を知る者は少ない。

  また、真犯人は依然として捕まっていない。


  けれど、あたしは知っている。

  犯人の名も、犯人のその後も、『真犯人』も。

  あいにく、それを語るにはもう遅すぎるんだと思う。

  あたしは正直・・・怖かったから。いや、今も怖いから。

  彼は生きている気がして・・・また、彼は目覚めたのかが気になって。


  あたしは隔離された空間に居ながらも、

  どこかで見張られている錯覚に怯えている。

  だから紙とペンを取って、つづるしかできない。

  誰に見せるわけでもない悪文を。『三行』に収まりきらない駄文を。



 なんてことはない。これは、どこぞの女がブログに載せようかどうしようか、かれこれ数年悩み続けている内心である。

 女はもうネットワークとは無縁の世界で暮らしている。都市伝説と化した、ひとつの崩壊した町で。


 それはそうと、主に小学校高学年から三十代半ばくらいまでの世代――いわゆる『若者』というやつは、珍事に邂逅かいこうすることを都市伝説と言うらしい。

 今の時代、どこかしこで都市伝説がはびこっていて、信じるか信じないかは本人次第とかマスコミ次第とか――


 本当になんてことはない。

 これは牛男のうしおとこ噂を巡る、ちょっとした昔話だ。

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