苦手なものは最後に


「で、本日の部会はですねー毎年恒例の部活動新聞、および大会日程掲示板の写真を撮ってきてもらう役割分担を決めたいと思います。あ、スクープ写真ももれなく!」


 机をロの字に向い合せたよくある部室で、写真部部長である日吉一葉ひよしかずはが喜々揚々と言った。

 写真部では新入生も落ち着き始めた五月と三年が引退した後、随時部活動新聞として写真と記事を書いている。三年の引退が早い部活は四月に速やかに行われるが、要は新入部員の紹介や活躍している部活の紹介だったりする。掲示板も同じようなことで、各部の大会の日程に活動写真を載せるため、言わばスポーツ記者のように活動するということだ。


「日吉君。スクープ推しするのは構わないけど、ちゃんと下級生に教えておいてね? 新聞も掲示板も出す前に上級生と顧問のチェック。写真部で撮った写真を勝手にSNSに上げないってこと。よーっく言い聞かせてね」


 加茂がにこにこする反面、日吉の顔が凍り付いていく。一年生はその時思った。部長は過去に何かをやらかしたのだと。


「……えー…で、昨日加茂先生と打ち合わせて、去年と担当部活を変更してみました。ほいプリント」


 ぎこちないまま日吉はプリントを配っていく。


「……え。うわっやだっ」


 プリントに目を通した香取は、自分が担当する部活を見てつい声を漏らしてしまった。


「朔先輩が珍しい声出してる!」


 後輩の女子が珍しそうに香取を見た。いつもならいちいちこんなことで声など上げない。たぶん、あのことがなければ何も感じることはなかった。プリントには手芸部・弓道部そして、野球部と書かれていた。




―――――


 そこはまるで別の場所に来たかのように静かな空間で、一連の動作に見入ってしまえば遠くに聞こえる他の部活動の音さえも消えてしまう。ただ静かなだけでなく時折何かが弾ける様な音は、油断していると心臓をびくりと震わす。


「ふむ。それでまずはうちに来たわけか」


 白い胴着と黒い袴。手には先ほどまで的に刺さっていた矢を四本抱えて鹿島は香取を迎えた。じゃりっと鹿島の雪駄が地面の砂利を鳴らす。香取は写真部の部会を終えて撮影の日程を決めるべくまず初めに鹿島のいる弓道場へ向かったのだ。

 鹿島へは石上とのことを逐一、というほど話題があるわけではないが話をしていた。四月の桜の海の一件以降ちゃんとした接点はない。が、知り合ったせいか登下校や校内ですれ違うと目に付くし、近ければ挨拶だけはする。今回、担当になってこれから彼の本拠地であれこれしているとまた絡まれそうで正直嫌だった。会話さえあればまだしも、石上は何を考えているのかどうしたいのかいまいち読めないのも苦手の原因だ。


「ふふふ……さくっちょ、これは運命なのかもしれないよ」


 弓を持ち、矢を引く凛々しい雰囲気はどこにいったのかと思うほど鹿島は嫌な笑みを浮かべている。


「冗談はよしてよ。本当に憂鬱なんだから。もー部長さん呼んでくれる?」

「はいはーい。あ、丁度いいタイミング! ぶちょー矢取り終わったらちょっと来てー」


 鹿島が少し離れたところにいた部長らしい女生徒に叫んだ。部長もにこやかに手をあげて応えた。これで弓道部との打ち合わせはできる。


「まあ、石上が部長なわけじゃないし、みんなのいる前で変な絡みはしてこないだろうし大丈夫だよ。それにさくちょに変なことしたら私が仕返ししといてあげる!」


 矢を高らかに上げる鹿島に、仕返し怖そうだなと香取は思った。こう見えて鹿島の腕前はとても素晴らしい。一切の無駄がなく、的を見据える研ぎ澄まされた間は、シャッターを切るその音さえも許されないほど緊張感が漂う。そしてその後に鳴る的を突き破る音は自分が射抜かれたようなそんな気持ちを抱かせる。その時ばかりは邪念も吹き飛ぶ。そんな感じである。


「ぶちょーきたから私は戻るね」

「ありがとう。今度は写真撮りに来るからよろしく」


 道場内に戻る鹿島を見送って香取は一つ目の部活である弓道部との打ち合わせを始めた。


 

 

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