10日目 《NORMAL OR PSYCHOPATH…?》
「…
「…んあ…?」
糞ガキが殺ったであろう動物達の死体を辿り、森の中を抜けると、先に抜けて俺を待っていた女が口を開く
「ハァ…えっと…お前の…ハァ…名前か…?」
息も絶え絶えの俺は手を膝につきながら顔だけを上げて問う
「…うん」
「ハァ…ッフゥ…そうか!いいな、カッコいい名前じゃん」
呼吸を整え上体を起こして空気を取り入れてそう言う
「…ありがと」
すると優は着ていたパーカーのフードで顔を隠す
口元隠せてないからニヤけてんの丸わかりなのがまた面白い
良く見りゃ良い顔してるのになんか服装が残念系と言うかなんと言うか。俺と同じような服装だった
「それは置いといてだ。残りの1時間半で森を抜けて、ヤツのアテも無くなった訳だが…どする?」
「今回は諦めて次のゲームで探すってのはどう?」
「それは最終手段だな…出来る限り死亡者が少ない内にヤツは痛い目を見てもらった方がいい」
「それはそうだけど…手はあるの?」
そう聞かれると大した手がない事に気づき、両手を上げて「申し訳有りません」と伝える
「そりゃそうよね…」
次の瞬間、背後からとんでもない物音が響き渡る
いや、物音と言うより何かが風を切ってこちらに向かってきている音
「・・・ップ!! ・・・トップ!!!」
「危ねぇ!!」
「!?」
優を庇う様にして、地面に飛び込む
「ストップて言うとるやろ!!」
その声と共にそれは動きを止め、辺りに土埃が舞い上がる
「間に合ったからセーフだ」
それの正体は人間
30歳程の男が何処か見覚えのある男を担いで俺達の目の前に現れた
「ウウ…やばい、ゲロる…」
担がれてる男が地面に降りると、その場に顔を青くして膝立ちになる
「よ…よう…何時間ぶりや…?」
「…………?………!?」
俺と優はその時、[困惑する]と言う選択以外残されていなかった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、結局人前でゲロをぶちまけた通称"ゲロ男"を連れてきた傍迷惑なお人好しの成人男性から、2人の名前、能力、ここまで来た経緯を聞かせてもらった
ゲロ男はまだ気持ちが悪いらしく、未だに少し離れた場所で優に背中をさすってもらっている
「ありがとうございます漱石さん、あんな奴をわざわざ」
「いんや、俺の能力のお陰であっという間だったからな。大した苦じゃない」
「それで唐突なんですが、漱石さんはどっち側なんです?殺る側か、命第一側か」
「無論、こんなゲームに乗る理由は無い」
その男性は確かな眼差しでこちらを見つめ、キッパリとそう言った
「それは良かった、ならこれからは一緒に行動しましょう。仲間は多い方が良いですし」
こちらが手を差し出すと、漱石も「フッ」と1度目をつむりながら鼻で笑い、手を差し出してくれた
「まさか、この歳になってまた新しい友達が出来るとは、思いもしなかったよ」
「そうですか?漱石さんみたいな人なら沢山いそうなものですが・・・」
「生憎、俺みたいな歳になると人付き合いも淡白になりやすくてな。俺自体、人付き合いが得意じゃないから余計に」
「そういうものなんですね…」
「ま、仲間と言っても、いつ、誰が、何処で離脱するかも分からない状況だ。覚悟はしとくんだぞ」
漱石のその言葉は俺の中にあった不安を駆り立てるには十分な材料だった
「…やっぱりそうですよね」
「あぁ、誰がいつ殺されてもおかしくない状況だし、誰がいつ狂っちまうかも分からん状況でもある。何にせよ、とっととこの糞ゲーを終わらせる方法を見つけなくちゃいけない」
「・・・狂ってしまうと言うより・・・」
「ん?」
「…本性が出てくるというか…」
それは俺自身が感じたものだった
前までは[人を殺す]なんて考えもしなかった
なのに今はあのガキをなんとしてでも殺そうとしている
その時俺は理解した
[あぁ、これが俺なんだな]と
「…ま、そうだな。そうなのかもしれん」
そんな俺の言葉を漱石は何を言うでも無く普通に受け止める
「人間には二種類いる。何もおかしくない、至って普通の人間。もう一つは身体の何処か奥底に人とは一線を画するものがある人間。ここにいる人間の大半は後者だろ。」
「なるほど…」
「それも過去に何かしら有った連中だ。この広い土地でまだマトモな部類の俺達が集まれた事自体とんでもない程低い確率なんだよ。」
漱石の言うことは妙に説得感があった
歳が1回りほど離れた年長者だからか、出会って少しなのに気が置けない友人の様な感覚だった
確かに東京の2倍の面積の中で25人しか居ないプレイヤーの中で既に俺はマトモな3人と出会っている
誰かが意図してやっているかのように
「というか、ゲーム中断まで後、30分だが…大丈夫なのか?」
「えっ!?」
咄嗟にデバイスに表示されている時間を見ると6時30分を指していた
「ハァ…もう間に合わないか…」
「なら、もしもの時の為にフレンドになっておこう。もし別の場所にリスポンしても連絡を取り合える…」
「…え?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「こうやってフレンドになりたい人同士で拳を合わせて…」
「は、はい!」
「一緒に"コネクト"と唱えればフレンドに登録できる」
「よ、よし…」
「「コネクト」」
するとデバイスから[ピコン♪]と音がし、画面には[杉山漱石とフレンドになりました]と表示される
その様子を桜谷はやたらとキラキラとした目で眺め、優の方は[ほう…]と感心している
「はぁ、全く気づかなかったですよ…こんな機能」
「まぁ、デバイスを操作しなければ気づかないだろうしな。あ、[FRIEND]の欄から人を選択してメッセージを送れるから覚えておくように。」
「「「ハイッ!」」」
「じゃ、じゃあ今度は私と!」
「ハハ、良いもんだな。こういうのも」
その後、俺らはガキの捜索を断念し、互いについて話し合ったりして残った時間を潰した
まさか、こんなクソみたいな場所でこんなに良い仲間と出逢えるなんて思ってもみなかった
そうして、このサバイバルゲームの1日目は幕を下ろした
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