9日目 《仲良く生きましょう》

~桜谷と漱石が出会い1時間後~


俺と女はあの糞ガキを捜索しつつも一向に見つからないままだった


「狩人…ね。」


狩人を発見した時にデバイスに現れた[ENEMY]の欄から詳細を見てみる


驚異的な力を持ち、プレイヤーを殺そうと追いかけてくる《狩人ハンター》。彼等に見つかった時に生き残る方法は二つ


能力を駆使し、彼等の視覚外に逃げ切る。能力を使わないで逃げれる程、狩人は甘くない。


もう一つは応戦し、狩人を駆逐する事。こちらは生半可な覚悟で挑むのはオススメしない。何故なら、彼等もまた並大抵では無い覚悟でプレイヤーを殺さんとする。挑むのならば必ず3人以上で行うことを推奨する


尚、狩人の駆逐を果たした時、彼等は一つアイテムを落とす。

そのアイテムは使用した者の能力のランクを上げると言うものだ


「ランク…」


「今のままでも割と使えたけど、それが更に強くなるのね。主催者も粋なことするじゃない」


少し楽しいそうに喋る女に対し、俺はある種の恐怖を抱く


「と言うか…お前の能力ってなんだよ?仲間なんだからそれくらい」


「仲間?」


女の目が急に鋭くなり、瞳孔が大きく広がる

その目に思わず足が竦み、歩みを止めてしまう


「私、アンタの事は特に気に入らないのよね。仲間だの何だの言っといて、めっちゃ怖がってるじゃない。これならあのバカ正直な男の方がまだ楽だったわ」


嘲笑いながら女はそう言う


「第一、仲間って何?互いに利用し合うだけでしょ?それなら私の能力を教えて何のメリットがあるかくらい教えてよ」


「ッ・・・」


そう言われてしまうと明確なメリットも何も無い

ただの興味本位で聞いただけなのだからあるわけが無い


「ま、そんな事だろうと思ったわよ」


女はスカした目でこちらを見つめる

クソッ、この数時間で全国の女性が大嫌いになりそうだ

無性に腹が立ち、どう仕返してやろうかと考えると頭の中にピコンとアイデアが出る。


「《模倣イミテイション》…!」


近くにあった大木に触れて、大木の中にある繊維だけを抜き取り、それを一つ大きな紙ハリセンにする

おお、まさか木の繊維からハリセンが作れるなんて!存外応用の聞く能力かもしれない!


ンな事考えてる暇があるならここは一つ


「たあっ!」


「いてっ!」


上々の出来栄えのハリセンで女の後頭部を叩く


「ちょっ、何すんのよ!!」


「これが俺の能力」


「・・・は?」


女はジト目になり、あからさまに[なんなのコイツ馴れ馴れしすぎ]的なオーラを醸し出している

お前の方が馴れ馴れしかったのに


「素材があればある程度の物は作れる。銃とかそう言う細かいのは無理だが・・・このハリセンもそこの木の繊維から作った。模倣だ」


「・・・だから…?」


「俺の能力教えてやったんだ!能力までとは言わんから、名前くらい教えろよ!このままじゃ、戦闘になったって連携の一つも取れやしない!」


女は俺の言葉に呆気を取られたのか口を開けたままポカーンとしている

あぁ、良く考えたらこれ、俺が勝手に手の内見せて相手にも見せる事強要してる奴だぁ~、タチの悪いヤクザみたいだぁ~


「…」


そら見た事か、完全に呆れられたぞどうしてくれるんだ30秒前の俺よ


「なんで…」


「ホワイ?」


女の口から音が漏れ、確かめる為に耳を傾ける


「なんで…そんな簡単に手の内を見せられるのよ…私に裏切られるかもしれないのに…」


俯きながら拳を握りしめる女は言う


「なんか、お前は裏切らない気がしてさ」


頭をポリポリと掻きながら適当に流す

正直な所、内心物凄く焦っていた

そう言えばコイツ、仲間だと確定したわけじゃないんだった

もしかして俺は潜在的女タラシなのか?だからこんなに簡単にバラしちまうのか?


しかし俺のその言葉が女には響いたらしく、そこに泣き崩れてしまう


「お、おい!どうしたんだよ!?」


「私の事っ…!そんな風に言ってくれた人っ…!初めてでっ!」


「どうどうどう!泣くな泣くな!と言うか、こんなモタモタしてたら・・・ん・・・?」


女に肩を貸して立たせたあと、不自然な動物の死体が少し先にある事に気づく


死体も腐っておらず、目に見えるような外傷は全く無し。

にも関わらずその死体は口から多量の血を流しながら苦悶の表情を浮かべていた


「さっきからあのゴリラもどきみたいなのが居ないと思ったら・・・軒並み死体になってやがるなこりゃ」


「え・・・?なんでそんな事・・・?」


ようやく落ち着いてきた女は何故そんな事が分かるのか?と聞いてくる

そんな事は簡単だ


「あの糞ガキが殺したんだよ。アイツはあの見えなくなる霧の他にも毒や酸の混じった霧が使えるって言ってた。この死に方は多分毒だ。毒が使えるプレイヤーとかこの殺し方が出来る奴他にもいるかもしれないが、今持っている情報じゃ、こうやって考えるのが自然だと思ってな」


女は「なるほど」と言う表情で頷く


「逃げてる最中に殺して行ったんなら、奴が逃げた後にはコイツらの死体があるはずだ」


「ソイツを辿っていけば自ずとあの女に辿り着けると・・・」


「大正解だ。つか、もう5時かよ・・・後2時間で中断か・・・急ぐぞ、次のゲーム開始までアイツを生かしておくのはリスクがデカすぎる」


「・・・了解」


先程までの表情に戻った女は頬を叩いて前を向いて一気に駆け出す


流石に警戒心が無さすぎだと思ったが「まぁ、いいか」と流してしまっている自分がいた


この時はまだ、本気で人を殺そうなんて思っちゃ居なかった


俺が認知している限りの話ではあるが。

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