2日目 《良くあるけどあってはならない事》

「_______________」


なんだ・・・いやに騒がしいな・・・


と言うか・・・もう朝か・・・?

何だか早すぎる気が・・・


「起きろって言うてるんや!とっとと起きぃ!」


「・・・は?」


目を開くとそこは大きな人集りが出来ていた


「アンタさんが最後やで。はッ、最近の若いのは早寝早起きも出来へんのか!」


なんだこのエセ関西野郎は。お前だって見るからに俺とあんま変わらない歳だろうに


少し睨みながら舌打ちするとエセ野郎はそれに気づき、パーカーの襟首を掴んで無理やり立たせる


「何やお前…!あんま調子に乗らんほうがええで…!」


「調子に乗ってるのはどっち何ですか?いきなり煽り出してきたのはそっちでしょう。」


「なんやてェ・・・!」


『うん、全員起きたようだね!』


突然、聞こえてきたその声は人集りの中央のスピーカーから聞こえているようだった


音が鳴り出すのとほぼ同時に空中に可愛らしいキャラクターのホログラムが出てくる


『僕はジャッジ君!君達、約50人がこれから行う[ゲーム]を管理するのが仕事だよ!』


「なんやて・・・ゲーム・・・?」


「つか、安直な名前だなぁ・・・」


さっきまでざわめいていた人達はジャッジ君とやらの登場で静まり返り、エセ野郎もこっちにはもう目もくれていなかった。もう後ろから殴り倒して良いだろうか


『あっ、先に言っておくけど、[リタイア]したくなったら、君達の手首に巻かれているデバイスからメニューを開いて、一番下を押せばこのゲームから退場できるよ!』


「デバイス・・・?」


ふと右の手首を見てみると何やら小型化されたスマートフォンみたいな物が巻き付けられている


「ふざけるな!俺がこんなのやるわけないだろ!全くバカバカしい・・・」


ふと誰かがそんな事をいい始めると多くの人は彼の意見に賛同し、リタイアのボタンをタップしている音が聞こえてくる

エセ野郎もその中の1人だった


いや待て

どう考えたってそんなのおかしい。

何故、わざわざこんな見覚えの無い地に連れてきたのに[リタイア]等と言う選択技を与える・・・?

第一ここは


「おいアンタ、リタイアしたいなら他の人がリタイアした後にしろ」


エセ野郎にそう言うと、反抗的な声で喋り出す


「何でお前にそんな事を言われにゃあかんねん、アンタやってはよ家に帰りたいやろ?」


「良く考えろ!何でこんな場所に連れてきてまで妙な事をさせようとしているのに[リタイア]なんて選択技を用意するんだ!!」


しばしの間、いがみ合っているとスピーカーから再び音が流れ出す


『リタイア申請が受理されました。これより[リタイア]を開始します』


「リタイアを・・・開始・・・?」


すると最初に言い出した男の体が膨れ始める

その声からどれだけの激痛か想像するに固くない


「痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛いィッ!!!」


『またまた言い忘れてた!このゲームでのリタイアは[自分が最も恐れる死に方]だから!リタイアはあまりしない方が良いよ!』


「ウソだろ…こんな…こんな…」


彼もご自慢のエセ関西弁を忘れて素に戻っている

当然だろう。突然、訳の分からない場所に連れてこられて、自分もあれほどエグい死に方をしようとしていたのだから


辺りに響き渡る、様々な悲鳴が生きてる者達の精神を蝕んでいく


現に俺も立つ事は愚か、今にも口から飛び出そうな吐瀉物を抑えるのが精一杯だった


『う~ん。せっかく皆の分の《能力アビリティ》考えてあげたのに、もう半分近くになっちゃった~・・・』


「アビ・・・リティ・・・?」


ようやく気分が落ち着いてきた俺はそう声に出す


『そう!《能力アビリティ》!君達にはこれから、各自に与えられた能力で、殺し合いをしてもらう!』


「殺し合いだと!ふざけるな!何でそんな事を・・・」


『君達、元の生活に戻りたくは無いのかい?』


やたらハイテンションだったその声は途端に身も凍えるほどの冷たい声を放つ


「元の生活やと・・・!?」


『そう、今日集められた人達の共通点、それは他人に人生を狂わされてしまった事だ。例えば・・・上司に嵌められ、全てを失った人間、友だと信じてた人間に売られ全てを失った人間、自分はそこに居合わせただけなのに殺人犯に仕立てあげられ全てを失った人間』


その声は冷たく、しかし何処か楽しそうにしている


『そして・・・何もかも焼かれ、自分自身すら失いかけた人間』


その言葉を聞いた途端に背筋が凍りつくように冷たくなり、思わずその場に座り込む


『ここまで言えば分かったかな?そう!君達には殺し合いをしてもらう!そして最後まで残った1人には・・・平和で、家族が居て、友が居て、暖かい家もある。そんな[日常]をプレゼントするよ!』


「何を言ってるんだお前は・・・ふざけんな…殺し合いだと?誰がそんなの好き好んで…!」


「面白そうじゃねえか!何か?今、この場で!ここにいる全員殺しゃ良いのかよ!?」


その声の主は見るからに他の人達とは違い、"いかにも"な顔だった


『まぁまぁ、そう焦らない!今から君達25人を全く別の場所にスポーンさせるから、その後、デバイスからゲームについての説明を聞いてね!それではgame・・・』


その僅かな間で他の人達はどんな感情を抱いたのだろう?


畏怖、怒り、興奮。様々な物があったであろう


しかし俺はそのどれでも無かった


"無"。全くの無だった。


見ず知らずの人が多く死に、自身に起こった最悪の出来事を暴露され、これから始まる殺し合いを楽しもうとしている奴がいる事に困惑し、様々な感情が入り混じった結果、何も無くなり、力無く地面に伏せるのみだった


するとエセ野郎が無理やり俺を立たせる


「ま、お互い頑張って生き延びようや。」


奴はそういいながら俺に笑いかけた


自らが大泣きしている事にも気づかず


『Start!!』


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