第63回『スロウ・ライフ』

使用お題→【シリウス】【秋の夜長】【十五夜】<サグラダ・ファミリア>



 あのゼミに男性は21人もいたのに、彼しか目に入らなかった。


「貴方は、私にとってのシリウスなの」


 そんな遠回しな告白に彼は優しく微笑んで、私の頭を撫でた。


「素敵な言葉をありがとう」


 名前にもピッタリかもしれない、と少し照れながら呟く。

 冬生まれだから、冬司とうじ


「あんまり好きじゃなかったけど、君のおかげで好きになれそうだよ」




 虫の声を聞きながら壁に背を預け、二人で並んで窓から入る月の光を頼りに本を読む。


「読める?」


 私は笑いながら、囁く様に彼に聞いた。

 今夜は十五夜、空には煌々と月が輝いている。

 もうすぐ満月。


「秋の夜は長いから、そんなに急がなくて良いよ。ゆっくりで良い」


 そう言って、目を細めて見返してきた。

 彼の隣で、彼と同じ文庫本を読む。

 同じ本を持っていると分かった時、運命を感じてしまった。

 きっと、あの頃の私は乙女だったのだ。

 思い出して自分で笑ってしまう。

 そして、それは歳を重ねた今も何処か変わらないでいる。

 この本を読み終えた後の答え合わせが楽しみで仕方無い。


「いつかスペインに行きましょうよ」


「どうして?」


「人は生まれながらにして罪深いから」


「君は相変わらず遠回しな言い方をするね」


 彼は首を傾げたかと思うと、はたと思い当たった様で苦笑いをした。

 彼も彼で、察しの良さは相変わらず

 それだからか、余計に彼との不思議な繋がりを感じてしまう。


「作りかけの僕達みたいだから?」




 そう、私達は今も作り続けている。

 素敵な未来を。

 設計図なんて無い。

 思いを想像して、尊重して、語り合う。

それは祈りの姿に似ている気がする。

 心に明るい光を放ち続ける彼の隣なら大丈夫。


『ゆっくりで良い』


 私は彼の声を繰り返した。


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