Episode14

夕方、町が祭りでにわかに活気づき始めている。


「暑い……」


「兄貴、暑いっすよ……」


洋服のせいで、どちらかといえば少し蒸し暑い。


うぅ、と掠れた低いうめき声があがる。


繁華街のど真ん中で、少し強面なビジネスマン風の男が二人――金沢と石井が、げっそりとした表情で路上に突っ立っていた。


二人は闇金融で働く、いわゆる借金取りだ。


本来は金を借りたまま返さない利用者に返済を催促するのが主な仕事なのだが、今はちょっと別の目的で外へ出ている。


かれこれもう二週間近く、とある少年のことを探していた。


「しかし、真夏日だとは聞いていたが、ここまで暑いとはな」


「もう夕方ですよ。どっか休める場所、行きましょうよ」


汗を拭い、ネクタイを緩めて、二人が大通りをトボトボ歩いていると、どこからともなくいい香りが漂ってきた。


コーヒーを煎る匂いだ。


「良い香りだな……あっちからだ」


「うい……」


匂いは路地裏から流れていた。釣られるように、二人は通路の奥へ進んでいく。


「……そういえば、ここら辺であの少年を見失ったような」


「そうっすかあ? 俺は全く覚えてませんけど」


「お前は鳥頭だからな」


「そんな」


やがて、古びた喫茶店の前までやって来た。名前は、看板に路地裏喫茶と書かれている。


扉を押して、中へ入った。


「いらっしゃい」


店内には客がなく、小ぢんまりとしていた。バックミュージックに、軽快なピアノジャズが流れている。カウンターには店主と思われる男が立っていた。


「もうすぐ閉店時間ですが、よろしいですか?」


「構わない」


金沢は言って、カウンター席へ座った。隣に石井が腰掛ける。


「とりあえず、アイスコーヒを二つ出してくれ」


「かしこまりました」


ああ、それと、と金沢は言葉を付け足した。ついでに訊いておきたいことがある。


ポケットから写真を一枚取り出して、店主に見せる。


「この男の子を、どこかで見かけなかったか?」


写真には、髪の伸びた、むすっとした顔の少年が写っていた。


ユズキだった。



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