Episode13
路地裏喫茶で働き始めて、二週間――。
仕事にも慣れてきて、何となく分かってきたことがある。
それはやってくる客の顔があまり変わり映えしない、ということだ。毎日見知った人が入ってくるので、何となく、身内のような親近感がわく。客の名前もすでにほとんど覚えてしまった。
アリスは、泰造を連れて数日置きに足を運んでくれた。素直に、嬉しかった。カオリの話しによれば、ユズキは今、どうも彼女に恋心を抱いているらしい。
若い青年の三人組とは、奇妙な関係が続いている。あれ以来、麻薬の話は出てきていないが、人数合わせに付き合って、時々麻雀の相手をしている。
今日は近所で祭りが催される日だ。
ユズキは、すでにアリスと一緒に祭りを見て回る約束をしている。
「いよいよ、デートだね」
「デートじゃありません。遊びに行くだけですよ」
ユズキとカオリは、店の玄関でアリスが来るのを待っていた。別に、待つのならユズキ一人でも十分だったが、カオリがしきりに世話を焼きたがった。
「いい? なにごとも、最初が肝心なんだよ」
カオリが人差し指を立てて言った。
「こういうのは、レディーファーストっていう決まりがあるの。ユズキくんが、ちゃんとアリスちゃんをリードしてあげないとね」
もちろん、それくらいは心得ているつもりだ。
遊びに行くための準備は、すでに済ませている。
服は買ってきてもらったものに着替え、お小遣もある。時間は、遅くならないうちに帰ってくればいい。
「ところでさ、アリスちゃんとはもうどこまで仲良くなったの?」
「そうですね……」
ユズキは少し考え込んで、「お互いの秘密を打ち明けるくらいには」
「まあ、やらしい」
「何でですか。ひどいです」
「冗談だよ」
カオリがおかしそうに笑った。
カオリと話しているうちに、玄関にアリスがやって来る。
アリスは挨拶をするなり、いきなりユズキの手をとった。
「さあ、行くわよ」
急にアリスに手を握られたので、ユズキは予期せず心がドキリとした。緊張してしまって、上手く話すことができなくなってしまったらどうしよう。
「行ってらっしゃい」
カオリがニコニコして手を振った。
ユズキは、行ってきます、と返事をして、アリスと一緒に喫茶店を後にする。
――あれじゃあ、どう見ても、ユズキくんがリードされる側だよね。
ユズキがアリスに連れていかれるのを見届けると、カオリは苦笑して、心の中で呟いた。
店に戻る。カウンターには父が立っていた。
「カオリは、行かなくていいのかい?」
「うん、まあ」
行きたくないといえば嘘になる。
本当はイチコと祭りへ行く約束をしていたが、ここ最近、なぜか彼女と連絡がつかなくなっていた。
「先に、上で夕飯作ってるね」
「……ああ」
祭りは、私の分までユズキくんが楽しんでくれればいい。
それよりも、イチコのことが気がかりだった。
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