第三章

Episode12

翌日。


今度は、人気のない路地が殺人現場になっていた。


警察が野次馬を追い払い、つい先程、遺体が搬送車に運ばれた。殺されたのは男性の一般会社員。ご冥福をお祈りしたい。


規制テープの奥では、鑑識チームの調査が始まっていた。


「……これで六人目ね」


婦警が言った。


「そうですね」


田中は答える。


二人はパトカーを背にして立っている。今は出番待ちだ。


「今回は、切り裂き魔の犯行と見て間違いなさそうね」


切り裂き魔――最近この町を騒がせている、連続切り裂き事件の犯人のことをそう呼んでいる。


性別は不明。手当たり次第、路上の人間を襲っては殺している。被害者は決まって男性がターゲットにされるため、切り裂き魔は女性なのかもしれない、と巷では何となく噂になっている。


「また男性が狙われたみたいですね」


「ええ」


婦警は頷く。


「前回の犯行からまだ数日しか経っていない。確実に、ペースが早まってきてる」


「……厄介ですね」


全く冗談じゃない、と思う。これではおちおち、外を歩くことすらままならない。


「一体、犯人は何を考えているんだか……」


ため息混じりに、ボソッと呟く。


「さあね。ストレスでも溜まってるんじゃない?」


「ストレス?」


婦警の回答に、田中は顔をしかめる。


――そんな理由で殺されたら、たまったものじゃないな。


「犯人は、私生活が上手くいってないのよ。だから、きっと殺すのね」


「はあ……」


何だか適当な話だった。


冗談で言っているにしても、ちょっと物騒だ。この炎天下の中だと、ツッコむ気力も湧いてこない。


瞼が重いので、田中は目をこすった。


「なによ、寝不足?」


「ええ、まあ」


アパートの男女自殺の一件以降、田中は個人的に行方不明になった少年の行方について調べていた。


今朝は、そのレポートをまとめていたせいであまり寝ていない。


「先輩が、例の少年の行方が気になるって言うから、ちょっと調べてみたんです」


言って、ポリポリと頭を掻く。


婦警は、あら、と少し意外そうな顔になった。


「あんたが真面目に調べものするなんて、珍しいこともあるのね」


「からかわないでくださいよ。僕も気になってたんです」


「それで、なにか掴めた?」


えっと、と田中は少し間を置いて、


「当時の、繁華街での目撃情報がいくつかあがってます。なんでも、大通りを走っている姿を見かけたとか」


「なるほど……」


婦警は頷いた。


逡巡して、そのままさっそうと歩き始める。


「ちょっと先輩、どこ行くんですか」


慌てて呼び止めた。


「どこって、繁華街よ。あんたも来るでしょう?」


「え、でも、こっちの捜査の方はどうするんですか?」


「ほっといていいわよ。どうせ進展ないんだし」


ぴしゃりと言われて、田中は言葉に詰まった。


確かに、もう何日も連続切り裂き魔の事件の捜査は停滞気味だ。正直ここにいても、そんなに意味は無いのかもしれない。


それよりも、少年の行方のほうが気になる。


結局、好奇心に負け、後を追うことにした。二人は現場をこっそり抜け出す。


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