Episode2

喫茶店の店内はレトロな雰囲気が漂っていた。


年季の入ったカウンターやテーブル、趣向に凝った内装が古さを上手く演出していた。大小様々な骨董品が店の随所に置かれている。用途はよくわからない。


少年はカウンター席へ座った。水を出してもらう。


「さて、事情を聞こうか」


少し間を置いてから、男が口を開いた。


「君みたいな子供が、どうしてこんな場所へ?」


「……その、僕、追われていて」


少年は言った。


「追われている? 誰に?」


「……両親に」


嘘をついた。男のことはまだそこまで信用していなかった。


「家出してきたの?」


男は急に気を削がれたような顔になった。


「はい。そんなところです。いい機会かなと思って」


「……ああ、そういえば、明日から夏休みだったね」


男は苦笑した。


「確かにいい機会かもしれない」


しばらく考え込むような沈黙があって、男の方が先に話を切り出した。


「私も、子供の頃に似たようなことをしたことがある。お金がなくなって、次の日には帰ったけどね」


「そうなんですか」


「でも、そういうのは嫌いじゃない。君、名前は?」


「ユズキです」


少年――ユズキは名乗った。


「私はこの店で店主をやっているものだ。ユズキくん、うちの店で働いてみない?」


予想外のことを言われた。


少し怪しい気もする。でも、これはこれで都合がいいかもしれない、とユズキは思う。しばらく自分の身を隠すのには丁度いい。


「いいんですか」


男――店主は頷いた。


「近々、従業員を増やそうと思っていたんだ。夏休みの間だけ、住み込みでお小遣いもつける。どう?」


ユズキには十分過ぎる条件だ。断る理由は特に思いつかない。


「是非、やらせてもらいます」


話がまとまると、二人の声を聞きつけたのか、二階から高校生くらいの少女が降りてきた。黒い長髪で、制服の上にエプロンをつけている。夕食の支度をしていたらしい。


階段を下りながら、少女が訊ねてきた。


「パパ、誰と話してるの? お客さん?」


少女は店主の娘だった。


「カオリ、紹介するよ。今日からここに住み込みで働くことになったユズキくんだ。夏休みの間、仲良くしてやってくれ」


店主の言葉につられて、ユズキはとりあえずペコリと頭を下げる。


「よろしくお願いします」


「え」


カオリが露骨に困惑した表情を浮かべた。当然だった。



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