路地裏のアンサンブル

pakucyann

第一章

Episode1

夕方、とある繁華街の路地裏に小学生の少年が駆け込んできた。


少年は半袖半ズボンでランドセルを背負っていた。息切れして、額には汗が滲んでいる。


とにかく、どこかへ隠れなければ――と少年は焦っていた。休んでいる暇はない。歩き出し、薄暗い路地裏の奥へ入っていく。


辺りを警戒しながら進むと、やがて小さな明かりが見えてきた。建物の光だ。少年は恐る恐る近づいていく。目の前に寂れた喫茶店が姿を現した。


一見して、古いお店だった。扉には「休業日」と書かれた看板が下がっている。少年は構わず扉を叩いた。


「すみません。誰かいませんか」


数回ノックして、返事があった。低い男の声だ。扉が開き、中から四〇代くらいの背の高いバーテン服姿の男が出てきた。


男は少年を見ると、少し驚いたような表情を浮かべ、それから落ち着き払った声色で言った。


「何の用だろう。今日は休業日だよ」


「……あの、中へ入れてもらえませんか」


少年は言いながら、周囲が気になって、しきりに目を横にキョロキョロさせた。今にも後ろから足音が聞こえてきそうで怖かった。


「何か、事情があるようだね」


少年の焦る様子を目の当たりにして、男は何か同情したようだった。


「中へ入りなさい。話はそれから聞こう」


錆びた扉が鈍い音を立てて軋み、閉じた。少年は店内へ入った。

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