第6話

「雅美……。もしもなんだけど、俺が大金を持ってきたら、やり直してくれるか?」

「え?」

 雅美は訝しげに坂下の顔を見る。しかしすぐに顔をしかめて、否定の言葉を口にする。

「無理に決まってるじゃない。あなたは一度私を裏切った。しかも妊娠中という大事な時に。そんな人とはもう一生ごめんよ」

「それはわかってる。だがこの五年、俺は反省した。反省してもし足りないくらいだが、もしお前がやりなしてくれるなら、俺は誠心誠意お前に尽くそう」

 祈るように手を合わせ、雅美の目を見て言う。それに面食らったのか、雅美の方が目を逸らした。

「大金って、いくら位?」

「えっと……、一千万くらい?」

「一千万!」

 言った直後に雅美は、慌てて口に手を当てる。それから声をひそめて聞き返した。

「本当に一千万?」

「あぁ。わけがあって一年後になるんだが」

「……、わかった。考えてみるわ」

 その口調には、渋っている感じは見受けられなかった。それに気を良くした坂下は、小さく笑みを漏らす。


「おかあさん~」

 修が呼びながら走ってくる。坂下を怖がって、少し遠回りに母親のもとに近づいた。

「ねぇおかあさん、このおじちゃん誰?」

「お母さんの知ってる人よ。修と遊んでくれるって」

 いきなりそう言われ、坂下は驚きを隠せなかった。しかしそんなことを気にも留めず、背中を押して無理やりベンチから立たせる。修は坂下の袖を掴むと、砂場の方に連れて行った。そこで黙々と、シャベルで砂を掘る。

坂下も腰を落としてそれを見ていると、修が口を開いた。

「おじさん、おかあさんのおともだち?」

「お友達っていうか……」

 坂下は口籠る。本当のことを言って分かるだろうか? いや、わからないだろう。

「そう、おじさんはお母さんのお友達」

「……、おじさんが僕のお父さんになってくれるの?」

「え?」

 思わず修の顔を見る。見つめ返すその目は、どことなく興味がなさそうだった。

 少ししてお昼になり、公園は段々寂しくなる。雅美も修を呼び、家に帰っていった。自分も呼んでくれないだろうか。微かにそう思ったが、雅美は何も言わずに公園を後にした。

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