第3話
坂下はゆっくりと玄関のドアを開ける。幸い外に人はおらず、部屋を出るところは見られなかった。坂下は取りあえず何かを食べようと、駅に向かう。まだ七時過ぎだからか、店はほとんど開いていなかった。しかたなくファストフード店に入り、一番安いセットを頼む。席に着くと、がっつくように食べた。最後にジュースを飲み干すと、ポケットに入れた携帯が振動した。あまりのタイミングの良さに、坂下は周囲を見回す。しかし、昨日の女は見つからなかった。電話が切れても困るので、通話ボタンを押す。
「もしもし」
「あんまりがっつくと、消化に悪いですよ。ただでさえまともな食事をしてなかったんでしょう?」
「余計なお世話だ……」
女が電話口で笑う。それにムッとしながらも、坂下は次の指示を仰いだ。
「で、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「そうねぇ……。午後六時に新宿の『浅井ビルディング』に来てください。そこで顔の整形手術を受けてもらって、東北の方にでも行ってもらいます」
「ようするに、顔を売るってことだな?」
「そう。勿論、言い値で買いますよ。一年はあっちに行ってもらうけど、安いもんじゃありません?」
「……わかった。で、六時まで俺は何をすればいいんだ?」
「好きにすればいいんじゃないですか?」
「あ?」
思わず声が出た。訝しげな声をよそに、女は話を続ける。
「新宿に寄席があるから、そこに行ってみたらどうです? 今日の演目は『芝浜』だそうですよ」
それだけ言うと、一方的に電話が切れた。
坂下しばし呆然となる。これからどうしようか……。少し考えて、取りあえず女の言う通りにすることにした。
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