第一章・プレリュード
第5話 顔合わせ
「・・・・・・遅い」
シームがあからさまにいらだった声を上げる。
まぁ、気持ちはわからなくもないが、別段約束していたわけでもないので仕方がないといえば仕方がない。
「メアちゃん、いっつも朝には帰ってくるのにねー」
・・・・・・らしい。
今、俺たちはギルドメンバー最後の一人を待っている。いつもは朝には帰ってくるらしいが、今はもう太陽ソルが空高く輝いている。
「心配だな」
昨日の夜、俺の寝床とされた部屋に二人が押しかけてきたときは驚いたが、結局そこで夜遅くまで話した。
結果、いつのまにか敬語も外れ、前の世界でのオンゲー仲間と同じように接するようになっていた。
「んー、まぁ、メアのことだから心配することはないんだけどな」
「ハヤトはまだメアちゃんに会ってないもんね」
おそらく昨日すれ違った人物がメアと呼ばれる人間なのだろうが、俺はその時、目を合わせるどころか、顔すら見れていない。
夜の間にギルドに帰ってくることもなく、今に至る。
「ったっくよー、置いてくぞあんにゃろう」
「ダメだよシーム、待ってなきゃ」
「でもよぉ、もう昼だぜ?ろくに狩りができなくなるじゃねぇか」
確かにその通りではある。
俺はてっきり、冒険者とはクエストを受けてそのために冒険に出るのかと思ったが、実際はクエストを受けるのは狩りや探索のおまけのような感覚らしい。
「まぁ、俺も顔合わせお預けはなんだし、もう少し待たないか?」
そう俺が言うと、むぅ、とシームが口を曲げる。
「まぁ、ハヤトが言うんならもう少しまってやるか・・・・・・」
というわけで腰を下ろそうとした時、突然後ろから声がかけられた。
「───あのさ」
振り返ると、そこにはショートヘアの女の子が立っていた。肌じゃ白く、それと相反した黒い人見や髪が映える。服装も黒や紫を基調としていて、腕には真っ黒なフード付きのコートがかけられている。
「・・・・・・知らないやつが一緒にいるから様子見てたけど・・・・・・、新入り?」
と、女の子───おそらくメアと呼ばれている人物───が聞くと、フィティスが答えた。
「そうだよ、ナルカミハヤト君って言うの」
「よろしくお願いします。好きに呼んでください」
初対面には礼儀を忘れない。これは大事だ。・・・・・・・特にこういう風に少し変わった人物には。
「・・・・・・私はメア。メア・シアールよ。どうとでも呼んで」
悲しいかな。やはりここには礼儀を重んじる風潮がないらしい。
俺がこんなことを考えていると、シームがおそらく誰もが抱えているであろう疑問をぶつけた。
「てかよぉメア、お前いつからいたんだ?」
すると、メアはさも当然といった口ぶりで回答する。
「いつからもなにも、最初からよ。あんたたち、ほんと鈍感よね」
「鈍感だとぉ!?バカにしてくれやがってよ!」
短気、ここに極まれり。
フィティスが止めに入る。
「二人とも何でそうやってすぐ喧嘩するの」
「・・・・・・フィティ?いつかはこいつも痛い目見ないと治らないのよ。この馬鹿は」
こんな言葉がある。
「「───馬鹿は死んでも治らない」」
おっと、フィティスと俺の考えが見事一致したようだ。二人で顔を見合わせて笑う。
「そんで・・・・・・どうせペルフェクティオが連れてきたんでしょ?見たところヒューマンね・・・・・・」
ならいいか、と聞こえたのは気のせいだろうか?
「私は・・・・・・スプリガン、よ。呪文なら得意」
「メアちゃんの闇属性スキルはすごいんだよね」
フィティスが補足説明を入れる。
おそらく、種族、または個人によって得意分野が違うのだろう。それに応じたアビリティを取得するのだろうと考える。
「そんじゃあ、出発するかぁ、メアのせいで遅くなっちまったからな」
シームがジロッとメアを睨む。
するとメアはクスッ、と笑い、こう言った。
「悪いけど私は今日はパス。ロンドと話ができたわ」
そう言えって彼女は、ギルド本部(?)内へ入っていってしまった。
隣でサラマンダーの低いうなり声が聞こえる。
「・・・・・・シーム、残念だったな。結局俺との顔合わせだけになっちまった」
そう俺が言うと、シームはこちらを見ることもせずにズカズカと歩き始めてしまった。・・・・・・相当不機嫌なのだろう。フィティスが待ってよぉと言いながら続く。
俺も走って追いかける。向かうは郊外の森を抜けた平原。
そこで、俺の初めての実戦を行うのだ。
ゲームのように上手く行ってくれないだろうか・・・・・・。
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