第6話 初戦

 重い。腕が思うように動かない。・・・・・・これが剣なのか、と改めて思う。

 ゲームでは当然の様に出てきて必然のように主人公のメイン装備ポジションに居座る王道たる武器。

 勇者、騎士が魔剣や聖剣を手に摂り、邪悪な魔物を倒す。プレイヤーはコマンドを入力するだけ。対人プレイの場合でもどれだけうまくコントロールできるかどうか。自分の体は一切激しい動きはしない。

 だが、これはどうか?今、俺の目の前にはいかにも雑魚というような魔物(?)が一匹。スライムである。

 そんな相手でも俺は今だに決定的な一撃を加えられていない。

 それなのに、戦闘の勘をつかむために。と、シームやフィティスは応援を飛ばすだけ。

 俺もオーソドックスな片手長剣を選んだのだが、重くて一振りするだけでも相当な体力を必要としてくる。


「・・・・・・こりゃ筋トレ必須だな」


 と、そうつぶやく俺にスライムがぷるぷるとした体を震わせて跳びかかってくる。直線的で避けるには容易い───と誰もが思うだろう。

 確かに、何も持っていない身軽な体なら容易いはずだ。だが、今の俺はなれない重り・・・・・・剣を持っている。

 故に、


───めっちゃベタベタする・・・・・・。


「ハハハハ!なんだおめぇ!スライムくらい避けろよな!」


「ハヤト君・・・・・・ちょっと面白すぎ」


 ・・・・・・めっちゃ笑われてる。フィティスまで笑ってらっしゃる・・・・・・。

 ヘタクソな俺が悪いのだが、俺は(実際に戦闘することに関しては)初心者なのだ。一言二言は言ってやりたくなる。


「しょうがねぇだろ!初めてなんだ!」


 そう俺が言うと、シームがさらに笑い出す。


「お、おまっ、いくら初心者、でも、スライム避けれないとか、ない、だろ」


 笑いすぎてうまく言葉になっていない。

 クソっ、だんだん腹が立ってきた。さっさとこんな雑魚は倒さねば。

 ・・・・・・こんな時、ゲームだったらどうしたっけな。

 始めたばかりの初心者で雑魚相手でも戦闘の仕方が分からない時。俺はいつも・・・・・・。そうだ、俺はいつも相手を観察し、動きを読んで、自分のヘタクソな攻撃を確実に当てるところから始める。

 今はただそれが実技であるというだけ。

 ───ならば。少し早く動けばいいのではないか。

 スライムが体を震わせながら縮める。これは突撃の予備動作だ。その体を伸ばそうとする、その時が剣を振るタイミング!


「そりゃあっ!」


 俺の振った剣は見事にスライムのぷるぷるとした体に吸い込まれて行き・・・・・・。

 ぶちゅっ。というなんとも気持ちの良いとは言えない音を立てながらスライムを二つに切り裂いた。

 その飛び散った肉片(?)は淡い光を放って、静かに消えていった。


「ふぅ・・・・・・終わったか」


 雑魚相手に手惑うどころか疲労まで感じている。これはどうしたものか・・・・・・。

 俺がその場に座り込んでいると、二人が駆け寄ってきた。


「なんだハヤト。やればできるじゃねぇか」


「すごかったよハヤト君!きれいに決まったね!」


 さっきまでゲラゲラ笑ってたくせになんなのだこいつらは。


「スライムごときでこれじゃあ、喜べないけどな」


 苦笑いしながら俺が返すと、シームが少し不思議そうな顔してこう言ってきた。


「いや、相手と関係なく、今の剣捌きは見事だったとは思うぞ?」


 珍しくまともな口調で話すシームには、謎の説得力があった。


「練習もかねてもう少しスライム狩ってから帰りたいんだが、いいか?」


 それでも俺は一刻も早くこの状態をどうにかしたいというゲーマーとしてのプライドが先に立った。


「ハヤト君がそれがいいなら、私もかまわないよ」


 フィティスがそう言うと、シームも頷く。



 結局、日が暮れるまでスライムばかり狩っていた。



「あぁ~疲れたあぁぁ~」


 スライムからドロップしたアイテムの≪スライム≫───そのまますぎるが───を換金所で換金し、帰路につく。

 換金所は昨日俺が目を覚ました聖会協議会の管理する建物の一階、つまり募集要項やクエスト掲示板のある施設内にあり、まとめて冒険者ロビー、通称ロビーと呼ばれているらしい。

 ・・・・・・昨日はペルフェクティオと歩いたこの道も、一日にして仲間と呼べる相手と歩けることに何か感慨深いものを感じる。


「なんだか、冒険者、って感じだな・・・・・・」


「何か言ったか?」


 俺の呟きが聞こえたらしい。


「いや、何でもない」


 この二人、いやメア含めて三人は俺が転生者だということを知らない。

 ・・・・・・言ってもわからなそうだしな。


 そうして俺たちは、他愛ない話をしながらギルドへ戻った。


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