第4話 凶、或いは─── 2
この男、本当にこの世界を治める長なのか。疑いのまなざしを向ける。
俺がそんなことをしているうちに、なんとこいつは宣言通り勝手に扉を開けて侵入していく。
・・・・・・俺がいた世界、ましてや日本でこんなことしたら即効お縄で豚箱入りだ。
俺が玄関の前で立ち尽くしていると・・・・・・。
「・・・・・・ナルカミ君?何をしているんだい?」
「・・・・・・は?」
思わず口汚く問い返す。
俺は決めたぞ。こいつだけは絶対に尊敬しない。
そんなことをしているうちに、家の奥から別の人が出てきて───赤い髪の毛に赤い瞳、炎を思わせるその 姿はおそらく、サラマンダーだろう。
「ん?なんだ、ペルフェクティオのおっさんじゃねぇか。さっさと上がれよ、何してんだそんなところで。・・・・・・見慣れねぇやつも居るな、客か?」
やや少年染みた声でそう言った。
なるほど、ここの住人とこの男、知り合いか。・・・・・・だからといって勝手に上がり込むのはどうかと思うぞ。
「やぁ、シーム君。今日はこの子、ナルカミハヤト君って言うんだけど、紹介しようと思ってね」
先程扉を閉められて訪問すら拒否されたはずだが?
「こんばんは、シームさん。ナルカミハヤトです。よろしくお願いします」
「なんだおめぇ、堅苦しすぎんぞ?シームでいいぜ。よろしくな」
・・・・・・悲しいかな、俺の礼節はドブに捨てられたようだ。
住人からの許可が下りたところで、俺たちは家の中へ入っていった。
外見から───失礼ではあるが───狭苦しい屋内だろうと予想していたのだが、存外広い。家具もそれなりに置いてあって、暮らしに不自由はなさそうだ。・・・・・・俺が暮らしていたアパートより広いというのは考えないほうが良かったかもしれない。
玄関から延びる廊下を抜けるとリビングがあり、キッチンが併設されている。
テーブルには最初に出てきた男性と、エルフだろうか、やや緑がかったロングヘアの尖った耳を持つ少女が座っていた。
「やぁロンド!今日は君にこの子を預かってもらおうと思ってきたん───」
「断る」
「即答!?」
ペルフェクティオが項垂れ、ロンドと呼ばれた男性は呆れ返った目でそれを見つめる。
まぁ、いきなり押しかけられて「この子を預かってくれ」なんて言われたら普通はこういう反応になるだろう。
と、エルフの女の子が口を開いた。
「ロンドさん!話は聞きましょうよ!」
おぉ、これで話が始められそうだ。
「それで、断ればいいんです!」
・・・・・・断るの前提?
その明るい声と眩しい笑顔から悪気がないことはわかるのだが、もしかしてこの娘、ちょっとダメな娘?
「・・・・・・そうだな。ペルフェクティオ、その子どうしたんだ?ギルドは他にもあるし、そこへ入団させればいいだろ」
確かにそうなんだが・・・・・・。
「そうなんだよねー。ただ、今時期が時期でどこも募集してなくってさぁ」
はぁ、とため息をつきペルフェクティオが続ける。
「・・・・・・何か断る理由でもあるのかい?」
ドストレートだ・・・・・・。だが、これは聞かなければいけないのは確かではある。
「・・・・・・これだ」
ロンドが右腕を持ちあげ───そっと指で輪を作った。
つまり、金である。金銭面で俺を預かる余裕がないということらしい。
だが、そちらには二人の冒険者がいるのだ。俺も加わって稼げば足りないことはないと思うのだが・・・・・・。
どうやらそれだけではないのだろう。
しばらくの間をおいてロンドが重そうな口を開こうとした時───。
「───おっと、そこまでだ。奥に行くぞ」
ロンドはそう言って立ち上がり、ペルフェクティオを奥の部屋に連れていってしまった。
残された俺は二人にかける言葉も見つからず、沈黙に落ちるしかなかった。
───意外にも、いや、案外予想通りではあったが、その沈黙はあまり長くはなかった。
声を上げたのはシームという名のサラマンダーだった。
「・・・・・・いやぁ、すまんなハヤト!俺らのリーダーの所為で変なことになっちまって。・・・・・・まぁ、なんていうか、その・・・・・・俺らもよく知らねぇんだ」
どうやら、この二人にも男二人が奥の部屋に言った理由はわからないようだ。
すると、今度はエルフの女の子が続けた。
「・・・・・・ロンドには、謎も多くて」
先程のような元気はなく、後ろめたさが前面に出ているようだった。
───俺は、言葉を見つけられず、曖昧に濁すことしかできなかった。
「・・・・・・まぁ、人それぞれ事情はありますし・・・・・」
なんとも無責任、放り出したような応えだ。
だがしかし、それでも二人は良く受け取ってくれたらしく
「ありがとな・・・・・・」
「・・・・・・ありがとう」
次にシームが声を出した時は、玄関で最初に話した時の雰囲気に戻っていた。
「こいつはフィティス。フィティス・サージュだ」
エルフの女の子の名前らしい。フィティスと紹介された少女がそれに続いた。
「種族はエルフです!フィティって呼んでください」
ニコりと笑うフィティはとても可愛らしくて───こんな女の子が問題児と言うのはなかなか信じがたい。
・・・・・・まぁ、問題児だろうと何だろうと俺は何かを変えることなどないのだが。
「よろしく。俺はナルカミハヤト、好きに呼んで欲しい」
シームに流されてか、敬語がいつの間にか外れていた。
「おう!やっと敬語が外れたな!」
・・・・・・さっそく突っ込まれた。
「・・・・・・ねぇ、シーム。メアちゃんは?」
「メアならさっき出かけたぞ。どっか散歩でもしてるんだろうが、探すのはやめとけ、夜のアイツは真っ黒でなんも見えねぇぞ。・・・・・・あぁ、ナルカミ、メアってのはこのギルドのメンバーだ」
なるほど。このギルドのメンバーは4人いたわけだ。
・・・・・・真っ黒といえば、ここに来る間にすれ違ったと思われるあの影のことだろうか。
「メアちゃんはよくわかんないですからねー。ただでさえ黒いのにフード付きの黒コートまで着ちゃって」
暗殺者でもやっているのだろうか?
彼女に対し不謹慎極まりないことを考えていると、奥の扉が開き、男二人が出てきた。
おそらく俺の処遇の話をしていたのだろう。
二人の顔から何か決断を下したということがはっきりと見て取れる
ペルフェクティは全員の顔を見て・・・・・・ついに口を開いた。
「私たち二人の間で話し合わせてもらったよ・・・・・・。残念だが、ロンドはナルカミ君の生活まで保障できないらしい」
俺、シーム、フィティスの視線が泳ぐ、どう反応したらいいかわからない。きっと、ギルドの入団はなかったことになったのだろう。
「・・・・・・よって、私の提案に乗ってもらうことにした。ナルカミ君、自分の生活費は稼げるね?」
ここでロンドが口を挟む。
「・・・・・・最初に金と言ってしまったからには、ってことで納得したよ」
何か隠されていることがあるような違和感を感じたが、ここで深く考える必要はないのだろう。
今において大事なことは他にあって───、つまり俺は、生活費を稼げるというなら、このギルドに居れるということだ。
───もともと俺はゲーマーで一人暮らし、生活費も自分で稼いでいたんだ。冒険すれば稼げる世界なんて、楽勝だろう。
ひどく安易な考えではあるが、答えは一つしかない。
「もちろん、よろこんで!」
「・・・・・・そうか!」
「───ナルカミ君、喜びたまえ!君は今日からここのメンバーだ!」
シームとフィティが歓声をあげる。ロンドまでもが少し笑っていた。
「ハヤト、これからお前もここの一員だ。───しっかり働いてもらうぞ」
この言葉を聞くまで複雑な気持ちの渦巻いていた俺の心だったが。
今はどうしようもなく、嬉しかった。
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