第3話 凶、或いは─── 1

「・・・・・・勢いよく幕を開けたのはいいんだけれど・・・・・・僕の話、長すぎたかな?もう夕方って言うかほとんど夜に近いんだけれど?」


 とぼけるペルフェクティオに「あたりまえだ」と心の中で返す。


「・・・・・・君、あたりまえだ、とか思ったよね、今。顔にめちゃ出てるよ」


「えっ、いやいやいやいや、ぜんっぜん思ってないですよそんなこと、えぇ、これっぽちも」


 慌てておどけてみせる。この男、第三の目でも持っているのか?心を読まれるとは。


「さっそく君には所属ギルドを決めてもらおうと思ったんだけど、明日かなぁ・・・・・・」


 俺の事で何気に残念そうな顔をされると少し申し訳なくなる。


「別に、今日でいいですけど。俺二日まるまる眠っていたようなもんですから疲れてないですし」


 俺は今日の昼間まで眠っていたのだ。全然疲れていないし、むしろ動きたい。

 と、あからさまにペルフェクティオの顔が明るくなる。あんたの方が顔に出てると思うぞ。


「本当かい!?じゃあ、今すぐにでもメンバー募集掲示板を見に行こう!」


 部屋から出て廊下を歩き、階段を降りる。

 一階もフローリングの床で、赤に金のラインが入ったローマを彷彿とさせるカーペットが敷かれている。 天井のほうはツタが這っていて、ところどころから根っこのようなものも垂れている。そこそこ不思議な光景だ。

 一か所大きく開いているところは出入り口らしい。夕日の光が差し込んでいる。

 しかし、なかなかに広い。大人数での宴会が開かれても余裕がありそうだ。

 ところどころに置かれたテーブル席にはちらほらと人が座っていて、冒険談だろうか、各々が話をしている。

 俺たちが降りてきた階段の反対側にはカウンターや掲示板が設置され、受付嬢がせわしなく働いている。


「あそこで依頼、つまりクエストを受けるんだ。冒険者のランクによって受けれるクエストも違いが出る。場合によっては別の世界線まで行くこともあるのさ」


 掲示板の前に立ち、ギルドメンバー募集要項の張り紙を探す。

 ・・・・・・それらしい紙が一枚も張られていないのだが・・・・・・。


「・・・・・・今は募集されてないみたいですね」


 俺がそういうとペルフェクティオは満面の笑みでこう言った。


「まぁ、予想はしてたんだけどね」


「・・・・・・あの」


 声音にあからさまな怒りを含めてボヤく。


「いや、いやいや、怒らないでくれ。この頃は新規メンバーを迎えて鍛える時期なんだよ・・・・・・許してくれるかい?」


 なるほど、俺がやっていたオンラインゲームでも、チームに新しいメンバーを迎えたらしばらくは他に迎え入れることはせずチームワークを取れるようすることに取り組む。

 では、俺はしばらくソロということになるのだろうか。

 ・・・・・・だが、たいていのゲームではソロでは行き詰ることが多い。これは困った。


「・・・・・・あるにはあるんだけど・・・・・・うーん・・・・・・・」


 ペルフェクテイオはたっぷり数秒間考え込み


「ナルカミくん・・・・・・君、個性的な人は好きかい?」


 この男、顔が引きつっている。この「個性的な人」は絶対に何かを隠しているに違いない。


「個性的、までなら平気ですけど、変態は無理です」


 俺がそういうと───ついに目を逸らしやがった。


「ははははっ!なら大丈夫だ!ついてきたまえ!ナルカミ君に僕手ずからギルドを紹介してあげよう!」


 このわざとらしい笑い、絶対にこちらを向かない顔、嫌な予感しかしない。

 ペルフェクティオに続いて外に出る。

 そこには、本当にゲーム内なのではないかと改めて疑わせる光景があった。

 石畳の大通りが一直線に伸び、道の脇では商人たちが大声をあげながら客を呼び込み、野菜やら肉やら───何なのかよくわからない物もある───を売っている。

 この時間は冒険者たちがクエストから帰ってくる時間の様で、道には鎧や兜などの防具や多種多様な武器を持った人々が歩いている。

 飲食店様々で、カフェのような店から酒場のような店まである。・・・・・・店によって明らかに客層が違うのもまた面白い。

 前を歩くペルフェクティオから聞いた通り、色々な種族が行き交っている。

 ───すべてまとめて人類と呼ぶ上に、確かに違う種族同士で一緒にいる者も多くいる。実に平和ではないか。

 などど考えているとペルフェクティオが振り返り、先ほどの引きつった顔はまるで嘘だというような笑顔でこう言った。


「どうだい?素晴らしいだろう?この街にはおおよそ争いなんてない。血を流すのは犯罪者だけさ!もっとも、そんなこと滅多にないけれども?」


 犯罪者以外が血を流すような殺伐とした所があってたまるか。この男、愛は伝わってくるんだが言い方がなんか残念だなぁ・・・・・・。

 どこか抜けているこの世界の支配者を前に、最大限微妙な顔を作って話を聞きながら歩く。


 ───すれ違ったのは一瞬だったが、いや、本当にすれ違ったのかどうかすら怪しいが、真っ黒なモノが俺の視界をかすめた気がした。


「・・・・・・どうかしたかい?」


 ペルフェクティオが訝しそうな顔で聞いてくる。


「・・・・・・いや、何でもないです」


 もう日も暮れてきているし、見間違いか何かだろう。そう思うことにして俺は足を進めた。

 5分ほど歩き、路地裏に入ったところで足を止める。


「ここが君に紹介したいギルドさ!少し待ちたまえ」


 やけに自慢気に扉をたたく。

 数秒後、扉が半分ほど開き、「お待たせしました」という挨拶とともにおそらくこの家の主人であろう男が顔を出した途端───ものすごい勢いで扉を閉められた。


「・・・・・・へ?」


 唖然とするしかない。扉があいたと思ったら一瞬で閉められたのだ。他にどう反応すればいいというのだ。

 と、扉を叩いた当人はというと・・・・・・。


「んー、まぁいいや、勝手に入っちゃおうか」


 ひどく身勝手なことを宣っていた。


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