第2話 異世界生活の幕開け

 ペルフェクティオが言った通り、俺は見事に混乱した。ゲームでも何でも、結果は後からついてくるものだ。何か原因があって、結果があるはずなのだ。そして俺は死んではない・・・・・・はず。

 意味の分からない発言、そして混乱。これらによってか、思わず語気が強まる。


「意味の分からないことを言わないでいただきたい・・・・・・!」


「おっと、怒らないでくれ。これから僕がこの結論を出した、しっかりとした理由を話す」


 ペルフェクティオは肩をすくめ、話し始めた。同時に俺の頭もクールダウンする。


「転生とは、死者が異世界で記憶や見た目はそのままに二度目の生を受ける。それは君もわかっているだろう」


「・・・・・・わかっています」


「そして、君の転生にはおかしな点が二つある。一つは、君が死なずして転生したという点。そして君がいた世界の情報が全く来なかったことだ」


 だが。とペルフェクティオは続ける。


「だが、転生はあくまでも二度目の生だ。死んでいない者はそもそも二度目ではないだろう?」


 では・・・・・・。俺はどうして転生などできたのだ?


「───因果の逆転、、、、、。というものがある」


「結果と原因が逆になっていることですか・・・・・・?」


「そうだ。ゲイ・ボルグという槍を知っているかい?」


 知っている。影の国の女王スカアハがアイルランドの英雄クー・フーリンに授けたとされる魔槍だ。

 ・・・・・・この世界でも同じ英雄譚が語り継がれているのだろうか。


「あの槍は、投擲すれば絶対に当たるという一種の呪いのようなものがかけられている。槍が・・・・・・『当たる』という結果を出してから、その軌道を描くからだ。───その軌道で投げたという原因があるから当たる。という結果が出るのではなく、当たる結果があるからその軌道を描く。という原因ができる。これが因果の逆転だ。君の言う通りだね」


 であるならば、だ。俺の場合に当てはめたとしたら・・・・・・。


「・・・・・・俺が転生したという結、、、、、、、、、、果を作ったから、、、、、、、、俺は死んだ、、、、、・・・・・・?」


「・・・・・・そういうことだね。」


 仮に、仮に因果の逆転が起こっていたとしよう。では、なぜそんなことが起こったのか。俺はもちろんそんな芸当できないし、あのハードだって所詮機械、更に公式のゲームメーカーが作ったものだ。ということは、要因は他にある。


「ナルカミ君のいた世界には、魔術や呪文の類は存在していたかい?」


「いえ・・・・・・過去の英雄譚や叙事詩では神や魔術師が存在したと語られていますが、おそらく現在は使える者はいないと思います」


「なるほど、なら原因はこちら側の世界・・・・・・もしくはこちら側の者にある。意図的かは定かではないが・・・・・・君に干渉し、転生という結果を掴ませて死んだという転生の条件、原因を確立した。おそらくこういうことだね」


 しかし・・・・・・といった風に考えるような顔をし、続ける。


「因果の逆転なんてこと、相当な魔力を必要とする魔法なんだ・・・・・・。いったい誰が」


 なるほど、納得した。では、こちらの世界の何者かが魔法を発動させ、俺を転生させて殺したということになる。


「これは・・・・・・現時点ではどうしようもないな・・・・・・」


 ペルフェクティオの言う通りだ。もうどうしようもないことなのだ。当然理不尽だと思うし、いまだに意味不明な節もある。

 だが、例えばゲームでバグが発生してデータが消し飛んだり、オンラインゲームで回線が落ちてその所為で試合に負けたとしても、誰に怒りをぶつけることもできないし、取り返しのつくことでもない。

 ───だが、今回の件を起こした犯人が分かったとしたら、絶対に一発は仕返しさせてもらおう。


「わかりました。では、俺はこの世界で暮らします。詳しく教えていただけませんか?」


「───割り切るのが早いな、君は。───では、この世界を治める長として、君に一から話そうではないか!」


「まず・・・・・・この世界にはいろいろな種族が住んでいる。エルフ、スプリガン、ケットシー、サラマンダーなど、それぞれ特徴を持った体つきをしている。それらをすべてまとめて人類、と呼ぶんだ。君は・・・・・・ヒューマンかな?耳もとがっていないし髪の毛に赤色も入っていない」


 なるほど、俺がいた世界では妖精扱いだった種族たちもこの世界では普通に人類としてまとめられているのか。


「そして、職業!ここでは冒険者を中心に職が成り立ってるんだ。まず、基本の冒険者、そして、武器や防具を作る鍛冶屋、さらに食を支える───」






「───それで、冒険者は日々上を目指して励んでるってわけさ」


 長かった。とてつもなく長かった。俺が話を聞き始めた時は太陽は空高くに上っていたはずだが、今ではもう地平線に沈みかけている。

 そういえば、太陽はこの世界ではソルと呼ばれているらしい。俺のいた世界では・・・・・・ラテン語だったか?

 長い話というのはそれだけで疲れるのだが・・・・・・この世界のことは大体わかった。率直に言うとファンタジーをそのまま具現化したみたいな世界だ。

 冒険者が中心で、その周りのサポートする職業。冒険者はギルドに所属し(ソロもいるが)それらをまとめて組織(ペルフェクティオが長で、名は聖界協議会)に管理されている。

 冒険者にはランクがあって、それに応じた依頼を受けたり、他の世界線───世界線ごとに名前や番号が振られ、普通はそれらの名前で呼ばれている───に行けるようになる。

 ステータスは数値では表されないが、冒険者の成長に応じてアビリティを習得できる。スキルを習得するとそれに応じた呪文や特技(スキル)が使えるようになったり、自分に補助効果がついたりする。

 そして魔法。膨大な魔力と引き換えにあらゆるものからの干渉を拒み、効果を発揮する───因果の逆転などだ───のだが、習得するには膨大な時間と経験が必要で、習得している者は極稀らしい。


「ありがとうございました。おかげでここのことがよくわかりました」


「ならよかった。・・・・・・では、君、職業はどうするんだい?」


 話を聞いた限りだが・・・・・・ものすごく面白そうだ。ゲーマーの血が騒ぐ。答えは一つしかないだろう。


「俺、冒険者になります!」


 ペルフェクティオは「ふっ」と笑い、こう言った。




「いいだろう!ここでの冒険者としての生活、存分に楽しんでくれたまえ!」


 ───こうして、俺の異世界生活は幕をあけた。

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