第1話 迷い込んだは異世界
「嗚呼・・・!なかなかどうして清々しい応えだ!いいとも。君を受け入れよう!ようこそ───異世界へ!」
どのくらい眠っていたのだろうか。あるいは意識を手放していたのかもしれない。
目を開き、周りを見渡す。白を基調とした壁にフローリングの床。カーテンのなびく窓際に置かれた今自分が横たわっているベッド。
「ここが・・・・・・・仮想世界・・・・・・?」
ほう、なかなかに本物然とした再現力。人類の技術はここまで発達していたのか。
・・・・・・などと考えていると、部屋のドアが開き、一人の男が入ってきた。
「目が覚めたかい?君がここに転生してから二日が経っているよ。まぁ、世界をまたいで肉体と精神、そして魂を移動させたんだ。無理はないか」
そのスラッとした出で立ちでローブを来た男は、ははは、と笑いながら話しかけてくる。
───いやまて。この男、今なんと言った?俺がここに『転生』してから『二日』と言ったか・・・・・・?
『転生』というのはまだわかる。俺は異世界物のゲームを体験しに来たはずなのだから、そういった演出でも不思議はないし、実際にそうだった。
だが。『二日』。これはなんだ。いやもしかしたらそれすら演出で現実と時間の流れが違うのかもしれないが───ゲーム内の時間の流れが現実と違うゲームはよくある───それでも二日というのはおかしい。
なぜなら、この体験はゲーム内での一日目まで・・・・・とされているからだ。
現時点で自力で結論を出すことを不可能と判断した俺は、その男に質問を投げかけた。
「あの・・・・・・体験の枠はもう終わっているはずなんですけど・・・・・・」
「へ?君は面白いことを言うね。体験・・・・・・とか、何のことかわからないけど、君はこの世界に転生することを望んで君の世界を捨てたって事実はわかってるよ」
何の解決にもつながらなかった。ここまでくると、本当に別の世界に迷い込んでしまったと考える方が筋が通ってしまう。
───これは元に戻れないところに来てしまったのではないか?そう思考を巡らせる俺に対し、男は更に続ける。
「僕たちはこの世界に大きな希望と期待を持っている魂を感知して、転生の意思を問うた。それが君だ」
なるほど、これは俺の予感が正しかったようだ。
「じゃあここは、ゲームとか仮想世界とかではなくて、本当に異世界と言うわけですか?」
そう俺がきくと、男は何のことを言っていることがさぞわからないといった顔をする。
「君が言っていることはよくわからないがそうなんだろう。・・・・・・正直こちらも君のことはよくわかってはいないんだ。すまないが、君が元いた世界の情報・・・・・・というか世界線が特定できない・・・・・・・・・・」
世界線?言葉だけは聞いたことがあるが、実感しろといわれるとそう簡単にはできない。
「世界線とはどういうことですか?・・・・・・俺の認識では、選択肢によって分岐した世界、並行世界みたいなものだと思うんですが・・・・・・」
「うーん、君の思っているものとは少し違うかな。僕らの世界で言う世界線とは、完全に違う空間、分岐なんてものではなく、各々が最初から別物なんだ。」
・・・・・・並行世界、パラレルワールドとは少し違うようだ。
「ここはいろいろな世界と繋がっていてね、クモの巣のようなものだと思ってくれていい。詳しく言えば、文化、種族、発展度の違う世界。またはモンスターの蔓延る世界、さらには時の流れまでズレている世界まで存在するということだ」
なるほど。少しは有体が掴めてきた。
「では、俺のいた世界線が特定できない・・・・・・とは?」
俺がそう聞くとローブの男は妙に納得のいったような顔をしてこう答えた。
「そのままさ。君の世界は繋がりの中に存在していない。転生した時点でこのことはほぼ確定なのだが」
繋がっている世界同士ならば自由に行き来できるはずだから転生の必要はないしね。と男は続ける。
「それでも転生時には元の世界の情報も少なからず一緒に伝達されるはずなんだ。だがそれがない」
それには少し思い当たる節がある。なぜなら俺は、普通に転生したわけではない。つまり死んでいない。俺の知る限りでは転生とは死者が別の世界で記憶や見た目をそのままに第二の生を歩むことのはずだ。
特に隠す理由もないため俺は、率直にそのことを言葉にした。
「あの・・・・・・俺まだ元の世界で死んでいないんですよね。つまりそこに問題があるのかと」
ゲームの体験をしていた事は伝えない。この異世界にそういった概念があるかすらわからないし。説明も必要になる。俺が死んでいないという事実さえ伝わればいいのだ。
と、男の顔が驚愕の色に染まった。
「死んでいないのに転生した!?それはおかしい・・・・・・どうあっても転生者は死んでいなくてはいけないはずだ。そうでなけ・・・・・ればいけないんだ・・・・・・・・」
「どういうことです?」
「失礼・・・・・・申し遅れたが私の名前はペルフェクティオ。詳しくはあとで話すが、この世界を治める組織のトップだ。・・・・・・君の名前は?」
いきなりこの世界のトップ!?今までの自分の行動に非礼はなかったか思い返すが、この男───ペルフェクティオが怒っていないということはわかるし、そうであるなら大丈夫だろう。
「ナルカミ ハヤトです」
そうか・・・・・・と小声で呟きペルフェクティオはこう言った。
「ナルカミ君。これから僕が言うことはおそらく事実。だが突拍子もないことだ。受け入れられないと思うし、混乱するとも思う。しても仕方のないことを言うよ」
すこしの間をおいて、彼ははっきりと、きっぱりと告げた。
「───君は、既に死んでいる」
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