体温計には嘘をつかせる

(よし、なんとか出てこれたぞ)

 教室を出た牧野は、こそこそと保健室へ向かっていた。授業中とはいえ、いつ誰とすれ違うのかわからないので、マスクをつけ具合が悪いのを装う。

 職員室の前を通ると、部活の顧問が出てきた。

「お、牧野、大丈夫か?」

「大丈夫です。一応保健室に行こうと思って」

「そうか。お前、最近練習来てないよな。またちゃんと来いよ。出ないと除名するぞ」

「すいません。失礼します」

なんとかやり過ごし、その場から離れた。

(ふう、バレなかった…)

保健室に入ると、何人かの生徒が寝ていた。

「先生、頭痛いので熱測りたいんですけど」

「そう、どこのクラス?」

「1年3組です」

「3組?ついさっきも来たわ。でもあなた、そんな感じには見えないけど」

「そうですかね…」

「まあ、とりあえず計ってみて」

 教師に渡された体温計を自分の脇に挟んだ。彼はポロシャツの下にヒートテックを着ているのだが、脇の下にカイロを貼っていた。これは大地のアイデアで、体温計をその部分にあてれば、簡単に温度を上げることができるという。

(39度か、ちょっと上がりすぎだな)

体温計のモニターを見ながら、上がりすぎないように微妙に離したりしながら調節する。ずっとあてていると上がりすぎて壊れてしまうかもしれないのだ。

ピピピピ、ピピピピ…

「38度3分⁉、どうしようかしらね…」

(よしよし上手くいった…)

「ベット空いてないのよね~」

ここにはベットが5つしかない。さっきの‘‘本当に”体調が悪い生徒が入り、ちょうどうまってしまったのだ。

「そうね。じゃあ帰りなさい。親には連絡を入れておきます」

(よし、思った通りだ)

牧野はけだるそうに頷いたが、心の中では飛び上がりたい気分だった。

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