第26話 アポロ計画

 アポロ計画は小泉市長の元、着々と進められた。

 「さー図面もできたしいよいと着工だな。渡辺、業者選定はどうなってる」「はい。まずは火葬場ですがこちらは地元のS建設が大手T建設とJVを組んで受注予定です。次の新高校は地元がK建設、大手がM建設とのJVで受注予定です」「選定方法は」「全てプロポーザル方式です」「よし。選定者はうまく調整しろよ」「それは抜かりなく」「両方で大凡いくらだ」「400億円ほどになります」「400億かー。5%で20億だな。イッヒッヒッ。くれぐれも最初のプロポーザルでは適正価格でやらせろよ」「はい。もちろん」「要は工事が着工しちゃえばこっちのもんだからな。引続き新庁舎建設も頼むぞ。こっちの予定価格はいくらだ」「はい。300億ほどです」「300億かー。イッヒッヒ」


 その頃高杉はアポロ市議会の無所属議員何名かとコンタクトを取っていた。もちろん来るべき衆議院選挙に備えての依頼もあったがそれだけではない。

 「皆さん。そろそろアポロ計画も工事着工になろうと思います。そこで皆さんにくれぐれも用心しておいて頂きたい事があります」「何ですかそれは」「それは追加工事です」「追加工事?」「はい。まず最初の業者選定は複数業者から選定しますから小細工はして来ません。もしそんな事をしたら今の時代一発でやられますからね。しかし追加工事は1社随意契約と同じです。要は工事を請け負っている業者匿名という事です。これは誰からも文句も出ないしその流れが当然だからです。ここで細工をして来ます」「そうか。そりゃ誰も疑わないしわかりづらいな」「皆さん。今度着工する火葬場と新高校は各々大凡200億円と聞きます。1工事で5%の追加工事ってそんなに違和感ないと感じると思いますが200億円の5%っていくらですか。10億円ですよ。これが二つだと20億円ですよ。奴らの狙いはこれです」「なるほどねー。そりゃわからないわ」「ですから皆さん。くれぐれも追加工事には目を光らせて下さい。今から追加工事に関しては話題にしておいた方がいい。もちろんこんな企みがあるとは言わないで、くれぐれも追加工事がでないようにと言うことを一般質問などで取り上げてもし追加が出そうであればその追加工事が金額を含め適切であるかどうか第三者委員会なような物を立ち上げて審議させるような事を提案して下さい。これは市民の税金です。事前に奴らの動きを止めなければ大変な事になります。是非お願いします」

 とは言え残念ながら無所属議員は発言力が乏しい。それは長年市議会にいた高杉は十分理解していた。しかし議会で質問などすれば多少の注目はある。それにメディアが食いつけばと考えていた。

 「まずは動きづらくする事が肝心だ」

 実は小泉が市長に就任して以来アポロ市はアポロ計画のみならずこれまでの公共施設の建て替えが急激に進んでいる。確かに老朽化が進んでいる施設もあるがそれにしても異常な状態である。現在、日本中の地方自治体又、国自体も借金まみれの状態で国の借金は既に1、000兆円を超えている。もちろんアポロ市の財政も決して楽な状況ではない。にもかかわらずこの箱物行政は異常だ。

 「こりゃアポロ計画だけじゃなく全ての箱物に目を凝らしていないとダメだな」と高杉は思った。


 「渡辺。アポロ計画以外の発注もうまく頼むぞ」「はい。そちらは大手は入れずに全て地元業社で回してます。奴らも喜んでますよ。小泉市長になって仕事が増えたって大喜びですよ」「そうか。ちょうどいい時期に市長になったな。俺の在任中にどんどんやっちまうぞ。道筋をつけたらあとは次の渡辺市長に託すよ」「ありがとうございます」「それはそうと地元業社からのこっちへの資金の流れはしっかり頼むぞ」「あーそれは大丈夫です。いつもの例の金融屋を使いますから」「マネーロンダリングってやつだな」

 小泉たちのやり方は業者からある会社に仕事を発注させる。そしてその金額をマネーロンダリングをする金融屋に廻す。そして洗浄された金が小泉たちの手に渡る。実は高杉はこの金融屋の情報も掴んでいた。

 「どっかで首根っこ捕まえたいけどなかなか難しいんだよな。金をもらう方はもちろんだけど渡す側も捕まっちまうから誰もはかないんだよな。でも今回こそはなんとかしないとな。何せとんでもない金が動くからな」


 「そう言えば渡辺。あの高杉が又、ちょろちょろしてるみたいじゃないか。何でも日新の会から衆議院選に出るんだってな」「全く懲りない奴ですよ」「本当だな。でももう応援する奴もいないだろう」「そりゃそうでしょう。今やこの街で小泉市長に歯向かったら

どうなるか皆んな知ってますから」「まーでも念には念だ。しっかり目を光らせておいてくれよ」「もちろんです」


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