第24話 再出発
高杉は選挙で長く休んでいたボクシングジムに復帰した。
「いやーやっぱりここは一番だな。汗をかいて嫌なことも忘れられる」「ドンドン・バスバス」
「あれ。高杉さん久しぶりだね」「あー会長ご無沙汰してます。今日から復帰しました」「あーそっ。そう言えば息子さん頑張ってるよ。今いくつだっけ」「18です」「そうなんだ。もうプロテスト受けられるね。受けてみれば」「いやーこればっかりは本人次第ですからね。まっ一応会長が言ってたって伝えておきますよ」「うん。よろしくね」
「広樹がプロボクサーね。まっ言うだけ言ってみっか」
高杉は家に戻り「おい広樹。お前ボクシング頑張ってるらしいな。会長がプロテスト受けないかって言ってたぞ」「えープロテスト。んー考えとく」「あーゆっくり考えろよ」
しかし翌日広樹は早速会長に「あのープロテスト受けて見ます」「おー本当か。やる気になったか。よしよし。じゃーバンバン鍛えるからな。しっかりやってくれよ」「はい」
広樹は元来運動が苦手でスポーツは全くと言っていいほどやっていない。又、元来人とのコミュニケーションを取るのが苦手でそんなこともあり小学生の頃はいじめにもあっていた。そんな広樹を見かねてスポーツ好きの高杉が広樹をボクシングに誘ったのだ。それが良かったのか中学生になりボクシングを習い始めてからはいじめにも合わなくなった。
その晩広樹は「プロテスと受けるって会長に言っといたよ」「えーお前本当に受けるの」「うん」「ヒエー驚きだなー。まーでもやるからには頑張れよ」「うん。わかった。パパも頑張ってよ」「頑張ってよって何が」「あー色々」「ふっ。そうだな頑張るよ。お前に負けてらんねーからな」
広樹は今の高杉の状態が心配で少しでも元気を出させようと思いプロテスト受験を決めたのだ。
翌日から広樹の猛特訓が始まった。高杉も元職の不動産業を再び初めた。
「いつまでもぐずぐずしててもしょうがねーや。銭稼ぐぞー。次の選挙まではまだ時間がある。まずは銭だー」
この年の夏は特に暑く記録づくめの猛暑が続いた。広樹のトレーニングは続く。時には高杉も練習に付き合った。「おい広樹。お前はリズム感がねーな。なんだかゼンマイ仕掛けのおもちゃみたいだぞ」「何。ゼンマイ仕掛けって」「まーなんて言うんだ。ギクシャクしてるって感じかな」「ふーん」「こうなんかノリのいい曲に合わせて踊りの練習でもしろよ。それと力強さが全然ないからもっと筋トレしろ」「うん。わかった」
高杉は知人を廻り「何か売り物ないですかね。すぐ客付けますよ」市会議員を12年やっていたので顔だけは広い。しかし小泉包囲網の為、回れる場所は激減していた。午前中は営業廻りに費やした。午後は資料作成など事務仕事だ。そして18時に上がりジムに行く。これを基本的なルーティンとした。選挙でなまった体を徹底的に鍛え直していた。「この与えられた時間を有意義に使おう。これもいい経験だ」高杉はこれまでにない時間を過ごしていた。思えばこれまではほとんど夜は家にいない。家族で夕飯を一緒に食べることなど1ヶ月に1度か2度しかなかった。しかし今はほとんど家で夕飯は食べる。まーそれだけ誘いも無くなったと言うことだ。当初は落ち着かなかった。それはそうだ今まで1日に何件も誘いがあったのがパタッと止まってしまったのだ調子が狂うのは当たり前だ。だがそれも徐々に慣れてきた。慣れてくると色々な考えもできるようになる。
「何か面白い仕事ねーかなぁ。そうだ空家だ」この頃全国的に空家が問題になっていた。これはアポロ市でも同様だった。「空家を売却すれば近所も喜ぶし街も綺麗になる。よしこれやって行こう」早速高杉はこれまでのネットワークを使い空家情報を入手した。しかしそこにはクリアーしなければならない大きな壁があった。個人情報保護法だ。空家はわかるが持ち主の情報を捕まえるのが非常に困難を極めた。しかし高杉は根気よく調査しノウハウを確立した。持ち主の特定方法を確立したのだ。もちろん持ち主が特定できないケースもある。相続がらみでどうにもできないものもある。しかし多くの場合は持ち主は特定できるがもうそこに住む気のないケースだ。そして解体費がかかるので家はそのまま。又、解体すれば更地評価となり固定資産税は6倍に跳ね上がる。だから多くは何もせずそのままなのだ。庭木は伸びゴミの放置場所となり近隣は多大な迷惑を被る。これを解決すれば皆が喜ぶわけだ。高杉はそこに目をつけた。しかしそう簡単にはいかない。持ち主を説得するのはやはりなかなか難しい。しかし大手の不動産とは違い小回りは効くし、何よりも交渉は得意だ。何件かまとめると徐々に噂は広がり高杉の元にどんどん情報が入るようになった。「よし。この調子で稼ぎまくるぞ」
その時には落選から早いもので1年が過ぎようとしていた。その頃広樹は未だにプロテストが合格できずにいた。もう3回受けている。やはり元来のスポーツ音痴。又、祖父母からは天使君と言われるほど優しい子だ。普通に考えればボクシングとは最も縁遠い子だ。
「おー広樹。どうだプロテストは」「うーん。自分ではいいと思うんだけどさ受からないんだよ」「そうか。今日から俺も受かるまで毎日付き合うよ。絶対受かろうな」「うん。わかった」
高杉も広樹のトレーニングに付き合った。毎日必死のトレーニングを行ったが結局広樹が合格したのは1回目のテストからちょうど1年目の7回目のテストであった。
「やったー広樹合格おめでとう」「うん。ありがとう」「やっぱり努力は必ず報われるな」「そうだね」「よし。次は俺の番だ」「パパ。頑張れ」
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