第17話 3期目2

 明けて平成22年2月の団会議にて突然反町議運委員長より「私は3月議会を持って委員長の職を辞します。付いては篠川議長はどうしますか」高杉は絶句した。「どう言う事だ」「実は篠川議長には議長を任せるに当たってこの3月議会までと言う約束をして議長に就任頂いた経緯がありますので辞職してください」岩井団長。高杉は「ちょっと待て、我々はそんな話は議長を決めるとき一切聞いていない。どういう事だ」「実は篠川議員、渡辺議員、私の3人での話です」「議長は我々の総意で決めるはずだし、もしそんな話があるのなら決める時にみんなの前で今回はこう言った事で3月議会までとなりますと言っておけば済む事で何も隠し立てすることはないでしょう」「私はその話は知りませんなー。これまで議長をやられた方は全て1年以上おやりになっている。私は昨年の5月に就任してまだ9ヶ月ですよ。こんなばかな話はないでしょう。岩井さん。あなたどれだけやりました。1年8ヶ月ですよね。よく私にそんな事が言えますな」篠川議長。「そんな裏取引みたいな事をなんでするんだ」関口議員。「言った言わないじゃないですよ。いつもそうだ裏でこそこそやるな。特に議長は皆んなが影響するものなんだからきちんと明白にやらなきゃだめだろう」高杉。会議は紛糾。結論出ず。

 「ドン。ドン。ドン」高杉はサンドバッグでボディ打ちの練習をしていた。「しかしあの反町って野朗はいけ好かねー野朗だ。妙に鼻につく。偉そうな話しっぷりと言い何様のつもりだ。気持ち悪い。ボディでも打ってやっか」

 今日も黒霧島だ。「なんか荒れてるね。高杉君。なんかあったの」「マスターわかります。むかつく野郎がいてさーいやんなっちゃうよ」「議員なんかやってるからだよ。俺なんか気楽なもんだよ。でも頑張ってよ。高杉君が議員やめちゃったらロイヤルルーム行けなくなっちゃうからさ。いひひ」「あのねーそんなもんすか。大丈夫ですよ。議員やめても取れますから。でも辞める気はまったくありませんから」「そうだそうだ。今度は衆議院にでも出ちゃえ。それで俺を秘書にしろ。そうすりゃ天下無敵だ」「あはは。考えておきますよ」

 何事もなかった様にその後の3月議会は閉会した。しかし渡辺の頭には篠川「排除」の2文字が浮かんでいた。

 その後何度か団会議が開かれ執行部は篠川議長の辞任を要求。しかし篠川議長は断固拒否を続けいよいよ翌週の月曜日に6月議会開会を迎える金曜日。再度団会議が開かれた。執行部側はどうしても辞めないのであれば市議団除名をも示唆し再度辞任を要求。しかし篠川議長は断固拒否。最終的に次の議長候補である高杉を含めた3期生5人に意見の集約を一任された。

 別室にて5人で協議しその場で高杉の同期生である上田から「篠川さんの意見と我々団の意見。両方を満たすには篠川さんには市議団を辞めてもらいその変わり9月まで議長をやってもらい9月議会で辞任してもらうしかないでしょう」この意見に対し3期生全員が同意した。

 問題はどうやって篠川に市議団をやめてもらい又、誰が首に鈴をかけにいくかだが当時篠川とまともに会話が出来るのは高杉只一人であった。

 高杉は議長室に入り「先輩。この議会はこのまま議長を続けて下さい。但し9月議会では辞任して下さい。その変わり市議団はお辞めいただきたい。これが我々3期生の意見であり市議団の意見です。もうあんなしょうもない連中と活動してもしょうがないでしょう。この提案呑んで下さい」「俺もほとほと奴らは嫌になった。わかった。そうする」「じゃー会議に戻りましょう。退団のご挨拶をして下さい。私、拍手でお送りしますよ」

 団会議は再開され篠川より「4期長い間お世話になりました。本日を持って退団させて頂きます」退席と同時に高杉より拍手が起きるが他は沈黙。篠川退席後、上田より「それでは今回の議長問題はこれで決着ですね」の言葉にてその日の団会議は幕を閉じた。中田派2人目の「排除」だ。

 翌週月曜日6月議会開会日である。高杉が自由党控室に入ると何やら騒いでいた。「議長不信任案を出す。反町議員。直ぐに事務局と打合せをして作成して下さい」渡辺。「わかりました」「ちょっと待て。先日の会議の話と違うだろう。どういうことだ」高杉が詰め寄るが渡辺は無視。「不信任案を作成したらきちんと団で揉め」怒声が飛び交った。しかし事もあろうに、渡辺は不信任案を団に持ち帰ること無くそのまま議会運営委員会に持ち込み議会運営委員会は開催された。そして不信任案提出者の名前には団長選挙で篠川に大変お世話になった松田の名があった。呆れるなんてものではない。「彼には自分の保身しかない。応援するんじゃなかった」結局高杉は一度も不信任案を見ること無く議会運営委員会は終了され、本会議にて採決を迎えた。議場内で岩井団長より「この案件は党議拘束をかけるから記入後お互い見せ合うように」と指示が出た。要は裏切りをさせないと言うことだ。これにより反対票を入れるものを無くし入れたものは処罰するということだ。高杉は堂々と白票を上田、反町に見せる。反町「冗談じゃすまなくなるぞ」「ふざけるな。こんな騙し討ちできるか」投票終了。賛成多数で不信任案は可決された。議会閉会後の団会議にて「こういう騙し討ちは私は絶対に許せないし賛同もできるわけがないので白票を入れた。大体先日の会議と話が全然違う。あなた方は最初から不信任案を出すつもりだったんでしょう。私まで騙して。結果的に私が篠川さんを騙したみたいじゃないか。ふざけるな。どうぞお好きに処分しなさい」高杉は発言し控室を後にした。

 「パン。パン。パパン」高杉はミット打ちをしながら考えていた。「もー奴らとやっていくのは限界だな。市議団出るか。一人で出ても面白くないしな。誰か誘うか。そんな度胸のある奴いねーか」自由党議員の多くがアポロ市に於ける自由党の力を知っている。「自由党にさえ入れば選挙に勝てると思っている。だから皆な市議団から抜けようとしない。与えられた地盤内を活動してさえいれば議員を続けられる。飯も食える。そしていつかは議長の椅子が回ってくる。こんな事しか考えてないから全く勉強も努力もしない無能議員ばかりになるんだ。最近あの控室に入るだけで気持ち悪くなってくる」

 練習後高杉はいつもの赤提灯に行った。「田原さんでも誘って見るか」「もしもし田原さん。高杉ですが実はもうほとほと今の市議団がいやで抜けようかと思ってるんですけど」「私ももうあの団はうんざりなんだよね」「そうですか。一緒に抜けますか」「ちょっと考えるね」田原は女性議員だ。父親も元議員で地元の名士でもある。

 地元の先輩の議会事務局吉田から電話がかかってきた。「高杉議員。気持ちはわかるけど今、出ちゃだめだ。あなたがいなくなったらそれこそ市議団はものを言う人間が誰もいなくなってどうしようもなくなる。ここは我慢してくれ」「田原さんから聞いたんですか。全くおしゃべりだからな。まーちょっと考えますよ」「まったくな。まともに漢字も読めない奴らとはやりたかねーし。まともに家庭も持ってない奴ばっかりだしな。何が子育て問題だよ。嫌になるよ。ほんとっ」今の自由党市議団員には読み書きがまともに出来ない者。未婚者。結婚はしているが子供がいないものが多数いた。やはり経験に勝るものはない。子育てももちろんそうだ。子育ての大変さは経験したものでなければわからない。これは理屈ではない。又、家族の大切さ素晴らしさもわからないのでは根本的に家族と言う日本の文化がわからないのではないかとさえ思う。高杉は元来どちらかと言うと所謂右系の思想の持ち主だ。「今の議員団の連中はちょっと違う」と日頃から思っていた。

 結局田原からも説得され高杉はとりあえず市議団に残ることにした。「まーこれで出たら渡辺の思う壺だしな」

 後日不信任案提出に反対した関口は団内の役職1年停止処分。不信任案自体に反対した高杉は全ての役職1年停止処分となった。「鼻っからこいつらとはやる気がないので落ち込みもないが改めて汚い奴らだ」と言う思いが強くなった。

 6月議会初日に議長不信任案は可決されたが当の篠川議長は全くこれを受け入れる気配は無い。議会は尚、紛糾が続いた。治る気配もないまま一般質問初日の前日。自由党、民生党は不信任案が可決されている議長の下では議場には入らないとの声。このままでは明日の一般質問は開催ができない。当時の議会事務局長は高杉と仲の良い引田局長だ。引田から「高杉議員。何とか篠川議員を説得してくれ。あなたしかいない」「またかこんな役回りばかりだな、俺は」と高杉は苦笑いをした。「さすがに議会が開かれないのは市民に顔向け出来ないよね。ちょっと話してみます」

 高杉は篠川議長の下へ向かった。「先輩。もう十分でしょう。辞表書いてくれませんか。但し6月議会が終了するまでは俺が預かるから最終日までは議長続けてくださいよ。それでやつら説得してくるから。この線じゃダメですか。さすがに一般質問できないのはまずいですよ」「高杉な。俺は何も議長の椅子に拘っているわけじゃないんだよ。汚いやつらの想い通りにさせる訳にはいかねんだよ。小池の無念さを考えろよ。おまえも知ってんだろう」「それはわかってますけど一般質問にはみんなの支持者も傍聴に来ますし市民に申し訳ないよ。辞表は何が何でも私が死守するから頼みますよ」「おまえもいい加減あんな汚い連中とやるのやめろよ」「俺も考えたけど今の議会構成じゃ出ても面白くないよ。中にいて改革頑張って見るよ。上手く変わったら戻ってきて下さいよ」「まーなーしょうがねーな。じゃー辞表書くから絶対奴らに渡すなよ」「わかりました。約束します」こうして篠川は説得に応じ辞表を高杉に渡した。

 高杉は約束通り自由党、民生党を説得し翌日通常通り一般質問は始まった。そして6月議会最終日に篠川議長は辞任し議長選挙が行われ新議長に高杉と同期の反町が選任され激動の6月議会は幕を閉じた。そして不信任案提出者に名を連ねた松田は県市議団協議会の会長に就任と言う飴玉をしゃぶらされ渡辺側に寝返った。「絶対に許さん」

 「パン。パパパパパン」高杉はサンドバッグを叩きながら考えていた。「なんか篠川さんに悪いことしたな。でもあのままほっといたら除名だったしな。しかし松田は許せねーな。さんざん団長選挙で篠川さんに世話になっといてあれはねーよな。なんで政治家って奴はあーなんだ。どいつもこいつもやってらんねーな。金に役職か。あほくせー。酔っ払ったふりして全員ひっぱたいちゃうか」

 高杉はいつもの赤提灯から篠川に電話した。「先輩。6月議会お疲れ様でした。なんか今回は色々申し訳ございませんでした」「別にあなたのせいじゃないよ。気にするなよ。でももう本当に信じられねーな。松田の野郎はどうしようもねーな」「本当ですよね。私も団長選挙で応援なんかしなきゃよかったですよ。まー今更言ってもしょうがないですけど。しかしまーどいつもこいつも言ってる事とやってる事が違いすぎますね」「まったくだな。目先の事と自分の事しか考えてねーよ。特に松田は御身可愛さでどうしようもねーな」「そうですね。私ももう奴とは口も聞きたくないですね。まーいずれにしてもお疲れ様でした。近々飯でも食いましょうよ」「そうだな。又、連絡するわ」「はい。失礼します」

 6月議会終了後高杉は中田市長と共にお互いの支援者である方々と一緒に富士に一泊旅行に出掛けた。そこは中田がよく静養で使う宿でもあり、屋上露天風呂からは目の前に富士山が一望出来る素晴らしい宿だ。メンバーは女性10人に男は中田と高杉の二人だけ。この女性方がものすごい。選挙となると目の色が変わる。元々中田の熱狂的なファンの方々で高杉は初出馬の時に中田から紹介された。高杉は当時を思い出していた。

 「おい。明日の3時にリーフレット持って古川地区の上野町会会館に来い」中田から電話が入った。「わかりました。とりあえず行けばいいんですね」「あーそうだ」翌日上野町会会館に行くと女性10数名と中田がいた。「えー今度市会議員選挙に出る高杉さんです。皆さん応援してやって下さい」「ちょっと市長。私たちは市長の選挙しかやらないって決めてるんです。いきなりそんな事言われてもどこの馬の骨かもわからない人の応援なんてできません」会の代表の渡部さんだ。「いやー渡部さん頼むよ。俺が出てくれって言って出てもらうんだからさ。何とか頼むよ。とりあえずお前自己紹介しろよ」「はい。高杉涼と申します。年は37歳。生まれも育ちもこちらの古川地区です。今回中田市長から推薦を頂き今年4月の市会議員選挙に立候補をします。よろしくお願いします」高杉は簡単に自己紹介した。「じゃあそう言うことで後はよろしく」「えっ」中田はとっとと席を立った。高杉は一人残され「あなたねー何を市長から言われてきたの」代表の渡部。「いやー唯、今日の3時にリーフレット持ってここに来いと言われただけです」「何なのそれ。とりあえず何者かもわからないからリーフレット配りなさいよ」高杉は配り始めた。すると「あんたいきなり立ちながらしかも後ろから人に配りものする。私の息子ならどなりつけてるわよ」会員の一人がいきなり怒り出す。「何なんだ一体」「じゃーあんたもう帰っていいよ。後私たちで相談するから」渡部。

 翌日渡部から電話があり「あれから皆んなで相談したんだけどまー市長があそこまで言うんじゃしょうがないって事になったから応援する事に決めたから。今日リーフレットとりあえず100枚持ってきてくれる」「ありがとうございます。すぐお持ちします」高杉はすぐにリーフレットを持って行った。1週間後渡部から電話があり「リーフレット書いたから取りに来て」高杉は取りに行って驚いた。「100枚全て揃っている。凄い。1週間でこれだけ集めるなんて」「あのねー私たちはやると決めたら徹底的にやるの。しごくから覚悟しておきなさい」

 これが渡部たちとの最初の出会いである。このインパクトは強烈だった。その後妻の麻里も渡部には徹底的に選挙なるものを叩き込まれた。おかげで今や立派な政治家の女房だ。「この人には本当に色々教わった」高杉は思い出し、思わず笑みが溢れた。「そうだ。もう一人選挙の女傑がいた」中田の奥さんだ。この方にも特に麻里は徹底的にしごかれた。「いい。女を口説けるのは女しかいないの。同類相憐れむよ。女性はあなたが徹底的に回りなさい」よく麻里は言われていた。さすがは中田の家内だ。

 温泉につかり、宴会でもカラオケなどで盛り上がり久しぶりにお互いのんびりした。その席で「涼。実は俺はここの所体調が余り優れないのでこの旅行を最後にちょっと酒を断つ」中田は無類の酒好きで通っている。高杉は驚いた。「大丈夫ですか。気をつけて下さい。まだまだやらなければならない事がたくさんありますよ」「大丈夫。わかってる」高杉は嫌な予感がしてしょうがなかった。

 その晩、中田と高杉はアポロ計画も含め色々語り合った。「涼。やっと火葬場ができるよ」「そうですね。市長覚えてます。前の火葬場建設の住民説明会の前日。私と京都で飲んでたの」「そうだっけか」「そうですよ。明日朝一で帰って俺が直接住民に説明する。俺が言えば大丈夫だって自信満々でしたよ。でも見事撃沈されましたね」「あはは。そうだ。思い出した。あの説明会は参ったな。あれは失敗だった。でもあの時の右翼はすごかったな。あの業界の奴らはさすがに金持ってんだな」「噂では右翼に3千万払ったらしいですよ。でも、火をつけたのは自由党の奴らってもっぱらの噂でしたけど」「わかってる。奴らには参るよ」「でも自然公園と併設なのはいいですね。かえってこっちの場所の方が良かったんじゃないですか。高速から行けるハイウェイオアシスってのがまたいいですね」「まー今考えるとそうかもな」「いずれにしても完成が楽しみですね。火葬場の完成が楽しみなんてちょっと変ですけど。でも葬祭場がないのはちょっと痛いですね」「まーそうなんだけど。しょうがないよな。葬祭場を作ると又、猛烈な反対がおきるし、そうなるとまた遅れてしまう。まずは火葬場を優先的に作って、その後徐々にやっていくしかないな」「そうですね。まずは第一歩ですね」「そういうことだ」「あと新高校も楽しみですね。文武両道県下一の学校ですか」「そう。特に理数系に力を入れようと思ってる」「スポーツもお願いしますよ。特にサッカー頼みますね。それとボクシング部も作りましょうよ」高杉は子どもの頃よりサッカーをやっており現在はアポロ市サッカー協会の会長をやっている。又、ボクシングの大ファンでもあり自身も3年前より息子とボクシングを始めている。「そういう話は一杯来るんだよ。全部作ってたら大変な事になるよ。まーでもメジャーなスポーツは強くしないとな。野球、サッカーは当然だな」「冬の選手権や甲子園にでも出場したらまちは活気づきますよ。やっぱり指導者ですね。団体競技は特に指導者によって全然変わりますからね。当てはあるんですか」「まーまだこれからだよ。あなたも頭に入れといてよ」「わかりました。高校が強くなれば必然的にその下の中学校や小学校も強くなりますよ。あと本校舎からグランドまでの距離もいいですね。土手を走れば10分位でアップには丁度いいですよ。只、河川敷の道が道路で遮断されるのがちょっと難点ですから河川敷の内側を改良して通れるようにすればバッチリですよ。それと何かやっぱりプロスポーツがまちに欲しいですね。Jリーグなんていいですよね」「スタジアムがないだろう」「ありますよ。今の競輪場がダメになったらあそこを改修すればバッチリですよ。観客も40,000万人収容できますし地下ピットはあるし選手の宿泊施設もあるし北駐車場にサブグランドまでできますよ。しかも西アポロ駅から歩いて15分ですよ。この距離がベストです。サポーターが旗を振りながら連なり歩いて商店が潤う姿を想像してみて下さい。最高でしょう」「金はどうするんだ」「わが町の企業はすてたもんじゃないですよ。絶対みんな協力してくれますよ。甲府でもできるんですよ。うちができない訳ないですよ」「いいなーそれ。まーでもこのアポロ計画を終わらせないとどうにもならんよ」「いや。それじゃ遅いから今から動きましょう」「まーじゃーそっちはまかすよ」「でもその前に基本的な部分でうちの市の小学校、中学校の学力をまずはどうにかしないと行けませんね」「そうなんだ。まずはそれがいの一番だな」「その為にも大学の誘致もこのアポロ計画には絶対必要ですね。文武両道県内1の高校を設立し、隣接に大学を誘致する。まさに文教都市新アポロ市の誕生ですね。学生が集まるとまちも活気づきますよ。やはりこれからはいかに若者を集めるかがまちづくりのポイントですよね」「その通り我が市の将来を考える上でもこの計画は何としても成功させなければならない」「あと新庁舎の建設地はアポロですよね」 

 [ここでのアポロと言うのはアポロ市中心部にある広大な空地で千葉県とアポロ市でタイアップし大規模開発を計画している地域で通称アポロシティと呼ばれている場所である。アポロ計画とはこのアポロシティを中心とした大規模開発を指す。]「当然だ。今の場所じゃ狭くてどうにもならんだろう。それにコストも工期を考えても比較にならない。そもそも庁舎の建替を急ぐのは3・11の地震があって今の庁舎では今度大きな地震が来たら持たないから急いでいるんだ。工期が掛かるのがわかっている方にわざわざする訳がない。道理が通らない」「そうですよね。大体今の場所に建替ても全く夢が感じられませんよ。アポロなら周辺開発を考えただけでもワクワクしてきますよ。あそこの周辺道路を利用してバスターミナルにし市内のバスは全てアポロに集まるようにしてそこから放射状にバスが出て行く。アポロに行けば市内どこにでも行けるようにする。周辺は活気付きますよ。それに場所的にも本市の中心ですからね」「それ。いいなー。アポロに行けばどこでも行ける。何かキャッチフレーズでも考えるか」「盛人式みたいに考えますか。」「あはは。あれは良かったな。一気に全国的に有名になったからな」盛人式とは通常の二十歳の成人式とは異なり人生の最中にいる50歳の人を対象に人生まだまだこれから。頑張って行こうと言う思いを伝えるイベントを行いたいと言う事で中田が立案したものを高杉が「盛人式」と命名したものだ。これは読み方が通常と同じ「せいじんしき」でこれが上手くフィットして全国的にも有名になった。「よし。この旅行から戻ったら一気にアポロ計画を進めるぞ」「頑張りましょう」「ところで涼。話は変わるけど渡辺達には気をつけろよ。おまえの実直なのはいいがそれだけでは政治は出来ないぞ」「わかってます。清濁併せ呑むって奴ですね。でもダメなものはダメですよ。特に私利私欲で動く奴は許せない」「まーしょうがねーな。でも、気をつけろよ」「市長こそ気をつけて下さい。あいつら中田下ろしに躍起になってますよ」

 9月議会高杉は1年ぶりに一般質問に立った。この質問で高杉が議員になる前からの地元の懸案事項である公民館の建替を正式に理事者から答弁を引き出した。既に内々には決定していたが晴れて皆の前で公表した形となり地元の方々は大変喜んだ。高杉はこれで当選来の地元からの重要案件はほとんど全て実行したことになる。「これで一息だな。議員になる時最低3期はやらなければダメだと言われたが仕事を考えるとやっぱりそれ位やらないとなかなか事が成就しないな。3期一区切りって感じだな」高杉は実感した。

 その後さしたる問題も無く平成22年の12月議会を迎えた。来年の平成23年には中田市長が5期目の選挙を迎える。この時期の12月の一般質問には自由党の団長が初日の最初に市長に対して出馬の有無を確認するのが通例である。岩井団長「来年の市長選挙に対し中田市長の意向をご確認したい」中田市長「5期目ではあるがこれから始まるアポロ計画を緒につけねばならない重要な事が残っている。まだ道半ばである。もちろん出馬します」「わかりました。我々自由党としても精一杯応援いたしますので頑張って下さい」このアポロ計画とは市庁舎の建替、火葬場・自然公園の建設、新市立高校の建設、大学の誘致である。総工費凡そ1、000億円を超えると言われる大事業だ。火葬場建設も以前の失敗を踏まえ先ずは建設地の用地を取得した。前回は住民説明会をした後で用地購入をしようと思った。やはりこれが失敗の一つであった。もう一つは関連業者の圧力を避けるため市営ではなく委託に切り替え尚且つ葬祭場は作らず火葬場だけとした。これにより計画は順調に進んだ。今度こそアポロ市の悲願達成だ。そしてそれに付随する自然公園は首都圏では初めてのハイウェイオアシスである。高速道路のサービスエリアからそのまま行ける公園である。市民はもとより市外の多くの人々の憩いの公園にもなる。次に新市立高校の建設である。現在アポロ市には3つの高校がある。これらを一つにまとめ1校とし県内で最も優秀な文武両道の学校を作ろうと言うものだ。そしてこれを機に大学を誘致し文教都市新アポロ市を目指す計画だ。もう一つは新庁舎の建設だ。現在の庁舎は昭和34年建設の庁舎で耐震性が非常に乏しい庁舎である。先般の東日本大震災でも屋上の望楼が崩れ庁舎自体が崩れなかったのが不思議な程の状態だ。この建設地をどこにするかが今期の焦点となる。これらを総じてアポロ計画と呼んでいる。

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