第12話 2期目2

翌年の平成18年の人事でも団長は引続き渡辺。幹事長はやはり3期生の今度は小池だ。もはや4期生の目は完璧に消えた。この時の団会計は同期2期生の吉川だ。

 その頃自由党市議団では盟友民生党への接待が頻繁に行われていた。相手は民生党団長大石だ。この事は執行部しか知らない。小池は団長の渡辺に「幾ら何でもやりすぎじゃないですか。一次会だけならまだしもその後の店も全部団のお金を使うのはさすがにやりすぎでしょう」「いいんだよ。こうやって俺が民生党を取り込んでるからあんたらに議長とか色んな役が回ってるんだろう。黙ってろ」この年の幹事長小池は実直な男で市議団の金の流れがおかしいと感じていた。それを同期の篠川と会計の吉川に相談した。吉川は「それ以外にも不審な点が多々ありますよ。ちょっとまずいと思います」「人の金を無断で使うとは何事だ。追求しろ」篠川。「まずは幹事長の私と会計の吉川君とで調べてみよう」「徹底的にやりましょう。僕はこういう事は絶対に許さない」吉川。「頼んだぞ。吉川」篠川。

 自由党市議団の決算は詳細は出て来ない。総括表のペラ一を回して見るだけだ。全く一般議員には解らない。実はこれは市議団だけでなく自由党アポロ支部自体もそうだ。松井が通帳から全てを握って取り仕切っている。松井の給料さへいくら払っているかわからない状況だ。どれだけの資金がありどのように使われているのかまったくわからない。

 小池は調べた。「やはりおかしい。使途不明金が多すぎる」「団長この金はどうなっているんですか」「いいんだよ。政治にはわからない金はつきものなの。黙って言われた事だけあんたはしてればいいんだよ」「いやこれは皆から集めているお金なんだからしっかり報告しなければならない。使いたいのならご自分のお金を使えばよろしい。さもなければきちんと皆に説明し皆が納得した上で使うべきだ。内緒にしておくのはやはりまずいでしょう。それに市議団だけでなく支部の決算も不明瞭すぎる。大体パーティーを開いたときの収支さへ分からないのは酷すぎる。私は引きませんよ。吉川君ときちんと明確にして行きます。市議団でこの状況では支部を考えるとぞっとしますよ」この時渡辺の頭には小池の「排除」の2文字が浮かんでいた。

 これが平成18年11月の事である。小池は年内にある程度報告書をまとめようと吉川に連絡を取るが一向に電話が繋がらない。折り返しの電話もない。「おかしいな」小池は不安を感じていた。実はこの時吉川は飴玉をしゃぶらされ既に渡辺側に寝返り逆に小池の動向を漏らしていた。ほとほと汚い男だ。

 時を同じくしてこの頃小池の自宅に無言電話等おかしな事が頻繁に起こっていた。市会議員の家に無言電話が掛かってくるのはたいして珍しい事でもないので気にしてはいなかった。しかし12月10日の朝「きゃー」小池の妻だ。「どうした」小池の妻が手を口で抑え指をさしている。何と玄関先に猫の死骸が置かれていた。小池は考えた。もしや渡辺による嫌がらせかそれしか考えられない。その後もほとんど毎日の様に嫌がらせは続いた。猫の死骸。ネズミの死骸。元来小池は実直な男でこういった嫌がらせには弱い。以前火葬場建設の際も右翼からの嫌がらせで精神的に病んだ事がある。妻は床に伏してしまった。その後も嫌がらせは続き結局小池も精神的に参りその後、病に伏し出て来られなくなった。中田派まずは一人目の「排除」だ。

 そしてこの平成18年は高杉にとって絶望的な事件が起こった。リーマンショックである。高杉は会社の建て直しの為、不動産投資を行っていた。これが非常に順調に推移し銀行の借入金も5年間で2億円も返済した。ところがこのリーマンショックで大損害を被ってしまった。その額は何と5億円である。これにはさすがの高杉も参った。そしてこれ以降会社の資金繰りは急激に悪化する。返済してはまた借りる。折返し運転。まさに自転車操業だ。回っているうちはいいが一旦止まったらアウトだ。

 ピーク時には20人いた従業員も今では7名にまで削減している。売上も10億から5億にまで落ち込んでいる状況だ。売上5億の企業が損失5億。これは大変な状況であるのは誰が見ても明らかである。高杉は従業員を集め現在の状況を説明しとにかく各自全員が営業マンたれの意識を持って仕事に取り組む様に話した。

 又、営業ノウハウを作る為にフランチャイズに加盟し新人でも仕事が取れやすい仕組みを作った。とは言え高杉が付きっ切りで会社を錐揉みすることはできない。営業、工事の責任者に頑張ってもらうしかない。高杉はこの責任者二人に全幅の信頼を寄せ高杉自身は資金繰りに奔走し何とか資金を集め何とかこの危機を脱した。

 この平成18年は矢幡市の市長選が行われた年でもあり合併推進派の村瀬が再選を果たした。そして村瀬は再び中田に合併の申し入れをした。この時中田は前市長名古屋との約束事であった「ゴミ処理はアポロ市で、し尿処理は矢幡市で行うと言う約束をきちんと履行してくれれば合併を受け入れます」と答えている。アポロ市はこの時既に約束通り矢幡市のゴミを受け入れていたが矢幡市は約束を守っていなかった。この点を考えてもやはり名古屋と言う男は信用できない。村瀬は約束の履行に奔走した。

 この件が進まなかった理由の一つにし尿施設の近隣住民の反対があった。「なんで他人様のし尿を我々が面倒みなくちゃならないんだ。うちの市をばかにしているのか」「自分のくそ、小便位自分で処理しろ」色々言う。村瀬は広域行政の大切さを丁寧にしっかりと説明し住民を納得させた。やはり名古屋とは違う。


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