第11話 2期目

明けて平成17年高杉は2期目に向けて準備を着々と進めていた。今回と前回の大きな違いは今回は自由党公認だと言うことだ。公認なんだから楽勝と一瞬考えるがこれが非常にうまくなかった。前回高杉を応援してくれた方々と前回は田畑を応援していた自由党第1連合のメンバーとがまったくそりが合わない。考えて見れば当たり前だ。前回の選挙で裏切り者・反逆者とまで謗られた訳だ。あの時の恨みはそう簡単に消えるものではない。又、連合のメンバーは自由党公認候補者なんだから我々が仕切るのが当然だと思っている。その上昨年突然引退表明をした田畑の責任をとり辞任した第1連合の会長の後釜に就任したのが事もあろうに田畑の父親である。自由党アポロ支部はこの就任を認めなかった。高杉は小泉から「あれだけ息子が迷惑をかけて舌の根も乾かぬうちに今度は親父が会長に就任するなんて認められるわけないだろう。高杉さん。地元なんだからその旨伝えてくれ」全くもって嫌な役目である。地元の自由党の方々は小泉の圧力で田畑は出馬を取りやめたと思っている。その小泉の言葉を伝えると言うのは想像するだけでも嫌な役目である。ましてや今の地元の雰囲気は最悪である。高杉は仕方なくその旨を伝えた。結果は案の定「何で一々支部が地元の話に首を突っ込んで来るんだ。ふざけるな。おまえもただ聞いてきたのか」こんな罵声が飛び交う有様だ。全くもって険悪この上ない状況である。高杉は自由党アポロ支部、地元自由党そして元々の後援会の人々との間に挟まれ気を揉む毎日だ。ある日自由党第1連合の高杉の町会の代表山中が「選挙は俺が仕切るからおまえの財布よこせ」と言ってきた。「この人何を言ってるんだ。気は確かか今の選挙は昔と違い必要最小限の資金でやらなければすぐに足がついて警察に捕まる時代だ。何に使われるかわからないものにお金は預けられない」高杉ははっきりと「お断りします。きちんと会計責任者を付けて行います」と言った。この方は元々田畑を応援していたが田畑の選挙は噂では2,000万は使う金満選挙だと言われ選挙の度に私腹をこらす者がいたという。このイメージがあっての発言だったのだろう。

 この雰囲気は告示日になり選挙戦が始まっても変わることはなかった。事務所は険悪なムードで高杉本人でさえ事務所には居たくない程だ。その上、今回は新海の元秘書若田が地元古川地区から新人として立候補している。厳しい選挙になるのは間違いない。又、呼んでもいないのに新海の現役秘書の仲本が嫌がらせの様に毎日事務所に来ている。何のつもりか。

 高杉は前回の選挙を踏まえ3年前より地元塚越駅で駅頭を続けていた。今回はその票も期待し当選はもちろんだが3,500票を目標にしていた。しかし事務所の雰囲気は最悪だ。とても組織として票を伸ばせる状況ではない。高杉は焦った。そこで高杉は決断した。やはり1期目からお世話になっている方々をないがしろには出来ない。とりあえず選対本部長には自分の町会では無く隣の町会の岩瀬町会長にお願いし最高顧問に1期目からお世話になっている小林さんにお願いした。小林さんはコバの父親だ。そして幹事長にはやはり1期目からお世話になった上原さんにお願いした。自分の町会の自由党の長である山中さんには副本部長をお願いした。しかし結局事務所の雰囲気は変わらず来る人もまばらな状態だ。やはり今回も最後は青年会のメンバーに頼らざるおえなくなった。選車のルート、運転手、ウグイスの手配。後援会加入者への挨拶周り等実によく動いてくれた。選挙も2度目になり皆んな慣れたものだ。実に心強い。高杉はと言うと毎日ひたすら歩いた。「歩き歩いて 豆の数程票をとり 見事当選」これは中田から贈られた言葉である。徹底的に歩いた。そして何とか選挙戦を戦い切りそのまま投票日を迎えた。

 投票日前夜危惧していた事が怒った。新海の秘書の若田だ。新海事務所は若田を絶対に当選させねばならないと躍起になり片っ端から古川地区の自由党支持者に電話した。「高杉は既に安全圏ですから若田に票を分けてください。お願いします。自由党の立候補者を落とす訳にはいかないんです。お願いします」徹底的な電話作戦だ。そもそも新海事務所には市内全ての名簿が揃っている。物量ではまったく相手にならない。この票分け戦法は自由党が最も得意とする戦法だ。特に新海と地元が同じ古川地区の高杉は常にこの妨害にあっている。

 そして投票日当日を迎え高杉は午後8時過ぎ1期目と同じとんかつ屋で開票を待ち、10時過ぎに事務所に向かった。1回目の開票200票。1期目と同じだ。10時30分。2回目の開票2,000票。もう少しだ。3回目の開票2,500票。思ったほど伸びない。だが、当選圏内には入った。そして4回目3,000票。「えっ」結局高杉の票は思ったほど伸びず3,029票に終わった。「何故だ。駅頭も3年間続け地元廻りもしっかり行ったのに」翌日色々な情報が高杉の耳に入ってきた。その中で最も多かったのは新海事務所から若田への票割の電話依頼が相当入ったそうだと言うことだ。又、新海の秘書の仲本が常に高杉陣営を監視し、逐次新海に報告を入れていたらしい。高杉は思った。「これは後2日選挙期間があったら俺は落とされていたな」と。中田派の「排除」か。

 何とか無事に当選を果たし高杉は平成17年5月新たな気持ちで2期目をスタートさせた。 

 残念ながら同期は3名減り7名となった。二人が落選。一人が事故で亡くなってしまった。亡くなった一人はかねてより奥さんが病に伏し、本人も看病を続けた結果体調を崩し、不慮の事故に遭い亡くなってしまった。しかも選挙中であったこともあり高杉達は大したお悔やみもできなかった。

 高杉2期目の市議団団長には5期生の渡辺。幹事長には3期生の岩井が就任した。順当に行けば幹事長は4期生の田原か松田のはずだ。完璧に4期生は飛ばされた。高杉は人事には無頓着なのであまり気にしてはいなかったが「何もわざわざ軋轢を作ることもないのに」と感じていた。

 2期目になると常任委員長のポストが回ってくる。2期生は軋轢が生まれない様常に年功序列で役職を順番に行っている。高杉は順番から行くと再来年に常任委員長を行う予定だった。しかし同期で3つ上の千野が急性白血病で急死した千野はスポーツが好きで酒も飲まず至って健康体であったのでこれには正直驚いた。突然はぐきから出血が起き血が止まらないので医者に行ったところ即入院。集中治療室に入り何とその晩亡くなってしまったのだ。まさに人生一寸先は闇である。

 常任委員会は2年交代だが1年3ヶ月を残し急遽。仕方なく高杉が後任として就任した。本来であれば2年間のところを1年3ヶ月だ。余り気乗りはしなかったが高杉は受けた。その代わり今度高杉らの同期に回ってくる役職に関しては高杉が優先的に就任すると言う条件で受けた。


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