第4話 火葬場

2年後平成11年。中田の2度目の市長選が行われた。今回は共創党との戦いだ。1期目とは違い全く盛り上がりに欠けた選挙であった。勝敗は中田の圧勝に終わった。

 この平成11年はアポロ市にとって悲願であった火葬場用地に目処がついた年だ。残すは住民説明会のみとなった。実はアポロ市には火葬場がない。人口50万人を超える都市で火葬場がないのは全国を見渡してもアポロ市くらいのものだ。市にとっても市民にとってもまさに悲願の施設である。中田はよく火葬場は福祉の最終型と言っていた。「その町で生まれ最後はその町で灰になる」これがまちとしての福祉の最終型と言うことだ。だが現在のアポロ市は「その町で生まれ他の町で灰になる」状況だ。最後の火葬場がアポロ市にはなかった。過去には火葬場建設の為に1億円を寄付した方もいる。それだけアポロ市にとっては悲願の施設であった。

 明けて平成12年1月高杉は中田と共に京都にいた。実は中田は例年この時期に行われる青年会の全国大会に合わせて京都に行くのを恒例行事としていた。

 この全国大会は例年京都で行われ全国から青年会のメンバーが集まりその時には祇園のまちが青年会のメンバーで溢れかえり携帯電話もなかなか繋がらない状況に陥る程だ。又、青年会OBの政財界の実力者も集い京都のまちに花を添える。もちろん中田も青年会のOBだ。

 その晩中田から「明日は一番でアポロ市に戻って火葬場の住民説明会をやる。これが終われば用地購入。いよいよ着工だ」中田は意気揚々だ。中田には自信があった。「何。俺本人が実際に行って話をすればきっとみんな納得してくれる」と鷹をくくっていた。翌朝中田は朝一番の新幹線でアポロ市に戻った。

 しかし住民説明会は紛糾。右翼まで現れる始末だ。その後も何度か説明会は開催されたがまとまらない。やはり総論賛成各論反対だ。火葬場は必要だが自分の住まいの近所では反対と言う事だ。そうこうしているうちに火葬場予定用地所有者がこれ以上待てないので他に売却すると通知してきた。これにより火葬場計画は頓挫した。近隣住民の反対はもとより関連業者の反対圧力が想像以上に凄かった。計画用地の地元議員の小池は右翼から圧力を受け精神的に病んでしまった。後年再び精神的に病んでしまう事件が小池を襲うがこの時のダメージもまだ癒されていなかったのかもしれない。この時右翼を動かし火葬場建設反対運動の中心になったのが隣町木山市の火葬場業者と言われ右翼に3、000万払って反対運動を後押ししたと言う噂だ。

 この火葬場建設予定用地は最終的に大手運送会社のトラックターミナルとなった。これが24時間大型トラックが出入りする為、騒音はもちろん周辺道路もすぐに痛む様な状況となった。これならば火葬場の方がよっぽど良かったと近隣住民は後悔した。もとより現在の火葬場はとても火葬場とは思えないほど環境整備され、これまでの様な霊柩車も走らない。又、火葬場を受け入れる代わりにバーター取引ではないが地区のインフラ整備等も優先的に行ってもらう事もできたはずだ。まさに後悔先に立たずだ。役所としても猛烈な反対を受けアポロ市悲願の火葬場建設が頓挫したのだ。この地区の傷んだ道路の復旧も後回しになる。当然だが周辺のまちづくりも遅れる。

 こうして1度目の火葬場建設は頓挫した。中田市政初の躓きだ。

 この時関連業者を煽り反対運動を起こさせたのが自由党アポロ支部の中枢の人間だと言われている。関連業者が騒ぐのは考えてみれば当たり前だ。アポロ市民のほとんどが現在隣町の木山市の火葬場に行く。木山市の人口は約13万人。アポロ市の人口は凡そ52万人。この52万人の顧客をなくすことになる。圧力をかけてくるのも当然と言えば当然だ。又、市内の民間斎場も市営の葬祭場が出来れば大打撃だ。この辺をうまく突いたのだ。目には見えない中田降ろしはこの頃から既に始まっていたのかも知れない。市民の事よりも個人の私欲だ。

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