展示会では買い付けもします
売出しの整理も終わり一段落すると、一号店の熱田から連絡があった。
「辰喜知の展示会、一緒に行こうか」
「え、いつですか?」
行きたければ行ってもいいよと、招待状を渡されてはいた。行きたければって言葉が微妙で、行って来いという命令でもなければ行くなという否定でもない。美優の意思に託した形で、店側の意向がまったく示されない。行きたいならと言われても、展示会に行くことで新モデルを確認するだけなら、カタログも届くのだし営業がサンプルを持って訪れるだろうし、外出するチャンスって意識だけだ。寒い時期なのだから、しかも駅から遠い店なのだから、非常に億劫である。
「先行発注もその場で受け付けてくれるし、カタログだけじゃ生地の質感とかわからないでしょ」
「そうですねえ。一回くらい行ってみようかな」
「行こうよ、結構面白いから」
せっかく誘ってもらったのだからと、店長の承諾を受けて出かけることにした。電車に乗ってる時間も時給の内なんて、お得。
微妙に路線の違う熱田と乗換駅で待ち合わせ、降り立ったのは問屋街だ。目についたのはまず、服飾部品の卸問屋。ビーズや皮やリボンの部材が並び、業者じゃなさそうな人が店に入っていく。『個人購入できます』なんて札が入り口に掛けられているから、手芸材料をまとめ買いする人が多いのかも知れない。ふらふら覗きたくなるが、同行者がいるので我慢しておく。他のメーカーの展示会の知らせも来ていたので、次の機会に寄ろうと楽しみにすることになる。たまには店の中だけじゃなくて、外出もいい。
華やかで今風の服が店頭に並べられ、安価いと目を瞠れば、そこは大抵個人お断りの卸し店だ。普段ショッピングモールで売っている商品の原価を見てしまうと、店頭価格がとんでもなく暴利な気がするが、そこまでの流通経路を考えればどこかで莫大な利益を取っているわけでもない。台風で野菜が値上がりしたからって、スーパーマーケットにクレームは入れない。円安で海外の縫製が値上がりすれば、アパレルも値上がりするんである。(だから店頭で、おまえの店が儲けるために値上げしたんだなどと、悪態をついてはいけません)小さいけれど、これも流通の勉強のうちだ。
キョロキョロしながら会場に到着して社名と名前を記帳すると、奥から辰喜知の担当者が顔を出した。熱田の名前がすぐ出るのに、美優は二号店の……で濁されるのが悔しい。数か月に一度の訪問で面識はあっても、メーカーを相手に売れ筋商品を聞きだす手腕はまだないから、新商品の説明を受けてそれっきりだった。印象が薄いのは道理である。
「今日は若い女の子と一緒だから、詳しーく説明してもらおうかな。新商品だけじゃなくって、全部ね」
熱田のリードで、端から見せてもらうことになる。美優の売り場に並んでいるものも含めて、コーディネイトが全品同じブランドなのは当然だ。カタログでは見ていたけれど、本当に下着やタオル、バッグまで一式揃う。作業服ブランドの下着なんて、買って喜ぶのだろうか。
「これ、売れるんですか」
不躾に疑問を口にしてみる。
「売れるよ」
「売れますよ」
熱田と担当者が、同時に返事した。
「作業着っていってもブランドに固定ファンはいるから、身に着けるもののイメージを統一したいわけです。電車で現場に行けば帰りは着替える人もいるから、バッグもあれば重宝だしね。作業服とタオルでコーディネートもできますよ」
タオルまでファッションポイントになるとは、知らなかった。たとえばスポーツジムに行くとき、洒落たタオルを持ちたいなんていうのと同じノリなんだろうか。
端から順に見せてもらい、ニューモデルの特徴を聞く。ストレッチ素材であるとか織りに工夫があって裂けにくいとか、見ただけでは覚えきれない。販売のポイントのパンフレットをもらい、読みながら確認した。
「うん、これ入れよう。生産次第で出してもらえる?」
ひとつのモデルの前で、熱田が立ち止まった。担当営業が嬉しそうに受注書を開き、記入する。美優は驚いて、その様子を眺めた。
「今発注しちゃって、いいんですか?」
ペンを動かしている担当者の代わりに、熱田が返事した。
「帰ってカタログ見たって、忘れちゃってるもの。現物を確認したんだから、ここで注文しちゃう。せっかくの展示会だから、今日受注できれば担当さんの実績にもなるの。美優ちゃんも決めていいんだよ。発注書の控えはもらえるから、春の予算はそれを組み込んで計画すればいいでしょ?」
「そんなこと、できるんだ……」
カタログを睨んで素材感を想像しながら発注するより、確かにこちらの方が確実だ。その日に頼めるとなると、見る目も変わってくる。つまり、よりリアルに。
「あ、これ可愛い」
ミリタリー調の綿の作業服には、ワッフル織りのカットソーが組み合わせてある。大工さんじゃなくて、カーペンターと呼びたい感じだ。
「最近は職人さんのスタイルも多様化してますから、そういう人も増えましたよ。何枚か飾ってもらって、売れるようならサイズを増やしていただければ」
職人って言葉で、鉄の顔を思い浮かべてしまうのは悔しい気もする。けれども実は、マネキンの顔を鉄に挿げ替えて想像してしまったのだ。
こういうハード系、似合いそうだよね。着てくれないかな。
「えっと、発注して良いですか。あとね、そっちのニットのシャツも気になるんですけど」
こうして初展示会の初発注だ。
入ってからずっと気になって仕方のないものの前に、やっと到着した。商品としてどうか云々ではなくて、きっぱり異質だからだ。
「何故こんなところに、タフィちゃんが」
口には出さなくとも、熱田も同じだったらしい。海外でも人気の高い、ファンシーなウサギのキャラクターがプリントされているカットソーが、何色も並んでいる。よくよく見れば、その可愛らしいウサギはハンマーを持っていたり鳶服を着たりしていて、バックプリントには『HAPPY TOFFEE by辰喜知』とか入っている。
「コラボ商品を開発しまして。どうせなら男臭いブランドの辰喜知に、思いっきり可愛いものをマッチさせようってことで」
営業も説明しながら首を傾げている。企画した人間はノリノリだけど、売る方から見れば危惧するものなのかも知れない。
「展示会限定発注なので、すぐ決めていただかないとならないんです。申し訳ありませんが、後日の発注は受けられないんですよ。アソートで三十枚のセット受注になります」
「勝負だねえ」
熱田も首を傾げる中、美優には少しだけ確信がある。
「伊佐治二号店、それ注文します。MとLとLL、各一セットください」
驚いた顔で、熱田が振り向いた。
美優が一番最初に思い浮かべたのは、量販店の下着売り場だ。メンズのトランクスにプリントされたタフィちゃんを見て、笑った記憶がある。その他にもドラッグストアに積まれたサンダルで見かけ、菓子の袋で見かけ、果ては兄のスマートフォンのケースで見た。ファンシーなキャラクターを買う男は、いるのだ。
「大丈夫、売ります。Mサイズなら女の子も着るし、五月入荷なら季節的にもTシャツが欲しいと思う」
「ライセンスの問題で、ちょっと値が張りますが」
ここでふと、松浦の言葉が浮かぶ。この場でしか注文できないものなら、売れれば正義の御旗を掲げてしまえ。頭の中で計算して、小物に十万以上の仕入れかと冷や汗をかくが、後悔するよりいい。
「美優ちゃん、チャレンジャーだね」
熱田に笑顔を返し、受注を締めてもらう。勝負をかけるなら、展示会に呼ばれていないワークショップと差別化できるほうがいい。少なくとも、ワーカーズに限定品は入らない。
足を運んだお礼にと、土産を渡された。会場を借りて資料を作り、更に手土産を渡しても、企業に利益のあるイベントなのだろう。美優も時給をもらって息抜きした気分だが、店に戻れば当然報告書を書かねばならないので、熱田と途中駅で別れてから昼食がてらファーストフード店に入って、もう一度資料を見直した。
もう生地の感触なんて、忘れちゃってる。形は写真で思い出せるけど、どれがどんな質感だったかなんて、全然わかんない。
モノを見て決めるっていうのは、さながらショップでの買い物だ。カタログを眺めて決めるのなら、それはカタログ通販みたいなもの。自分のための物か自分が販売するための物かの違いで、そして自分の財布か会社の経費かの違いで、やることは変わらない。どちらにしろ扱う人間の好みは反映されるし、予算も青天井じゃない。結構な金額の発注をした気がするから、それが入ってくるタイミングに合わせて、デイリーに動く商品の在庫を増やしつつ予算を調整しなくては。
私、結構面白い仕事してるんじゃない? 商品の動きを先読みするって、知識も必要だけど直感もあるような気がする。あとは好みの問題だもの、私が突拍子もないセンスの持ち主でなければ、気に入って仕入れたものを同じように気に入る人がいる。
泥縄でも泥縄なりに、客を捕えてきたと思う。その証拠に、売上は右肩上がりだ。足りなかった商品を揃えただけで売り場の信用度は上がった。そろそろ熱田の売り場のように、整えて個性を出すことを考えたっていい。アルバイトが仕事に楽しみや喜びを見つけても、いいじゃないか。
面白がってスマートフォンに収めて来た会場の様子を、もう一度見直した。ディスプレーも少々参考にできるかも知れない。鳶服と企業用の作業服の他に、カジュアルを主体にしてタウンユースを睨んだコーナーを作ると面白いかも。美優の好みはそちらに強く出るから、そこから少しずつ好みを発信していけば売り場全体の雰囲気が変わる。カタログを見て色や形を想像するより、はるかに強いワクワク感が湧いてくる。
他のメーカーの展示会は、どんな感じなのだろう。二週間後の日付の招待状が来ていた。確か同じ会場で、何社か合同だったはずだ。メインに扱うブランドではないから行かないつもりでいたのだけれど、もしかしたら展示会限定や新商品が目白押しであるかも。
よし、店に帰って報告書を書こう。それで、他のメーカーの展示会にも行くって言おう。目で見ないとわからないものが、まだたくさんあるはず。自分で決められるなら、気に入ったものを仕入れよう。
『はらいた?』
たった四文字のメッセの意味がわからず、疑問符一つだけの返信をした。報告書を提出し、荒れた売り場を丁寧に戻している最中に、スマートフォンが鳴ったのだ。
『休み?』
午前中に売り場にいなかったから、今日はいないと思ったんだろうか。てっちゃんは昼間から工具屋に来る用事、あんまりないと思うんだけども。
そう思いながらも今日は外出していたのだと返信すると、鉄自身が発熱して休みだという。具合が悪いのにフラフラと外に出て歩くなんて、子供みたいだ。
『ヒマだから行く』
熱がある人に来られて、風邪をうつされたくない。
それでも顔を見ちゃえば、嬉しい。少し上気した顔だが、別に辛そうな様子もない。
「飲み物買いにコンビニまで出たから。ポテチとかも欲しかったし」
「じゃ、もう用なんかないんじゃない」
「寝てたって飽きるんだよ。漫画読むくらいしかないし」
まだカウンターの上に置いてあった展示会の資料をパラパラ捲りながら、鉄が言う。
「なんか面白そうな場所とこ行ってんなあ。こういうのって、客も入れるの?」
「業者だけだよ。買い付けもするんだもん」
口に出すと、なんだか大層なことをしてきた気がする。そうだ、翌シーズンのトレンドを買い付けて来たのだ。伊佐治の作業服売場のトレンドを決定するのは、美優しかいない。その気負いが、少々口に出る。
「ちょっとね、綿とかのミリタリーっぽいやつも置こうかと思って。あとね、面白い仕入れしたよ」
タフィちゃんのリーフレットを見せて、笑わせる。売れるかどうかなんて意見は、訊かないことにする。シーズンインして気が向けば買うような商品なのだから。
「チョウチョウの新しいの、出た?」
鳶はスタイルなんて言ってた鉄が、自分の身に着けるものを気にしない筈がない。そんなことはもう、ちゃんと気に留めている。
「新柄はないって話だけど、六月くらいに限定品が入るよ。大きい市松の織り模様で、三色」
「それって見られないの?」
「春になったら辰喜知のホームページにアップされるんじゃない? 先行発注したから、うちは確実に入荷するけど」
ちょっとドヤ顔になるのは、鉄のオーダーに応えられると得意になっているから。売上が上がるのはもちろん嬉しいが、褒められればもっと嬉しい。商品の紹介だってできるようになったんだから!
他の客が来たタイミングで鉄が帰り、なんとなく物足りない気分で接客をする。メッセを交わせば直接の声が良いと思い、顔を合わせればもっと話してみたくなる。これが恋愛途上の欲ってやつだってことは、美優もわかっている。問題は、鉄がそれをどう感じているのかということだ。
ってか、てっちゃんは何をしに来たの? 熱があるんなら、寝てればいいのに。
期待しそうな自分を押し殺すために、敢えて冷めたツッコミを入れる。友達の恋愛相談には当たって砕けろとか言ったくせに、自分から鉄に近づくことに怖じ気てしまう。どうしたらこれ以上距離を縮めることができるんだろう。
寒い中自転車を走らせて帰宅すると、スマートフォンがメッセージを告げた。ヒマ、と一言は、オレンジ頭のアイコンの吹き出しだ。具合が悪い人がヒマだとぼやいたところで、どうしてやることもできない。せいぜい暇潰しのメッセにつきやってやるくらいだ。話題がないので、午前中にスマートフォンで撮った画像を貼ってやる。
限定品を見せびらかして、購買意欲をそそっちゃうんだもんね。
これといった展開もなく、メッセのやりとりを終える。自覚してしまった感情はそれでは満たされず、不完全燃焼なままだ。相手が自分をどう考えているのか、自分は相手とどうなりたいのか。本や漫画で読むだけの恋愛は、上手い具合に偶然が訪れたり同じタイミングで感情が伝わりあう。けれど現実にそんなことは、滅多に起こらない。高校生みたいに、好きな人がいるから協力して欲しいなんて言う相手もいない。自分でどうにかしなくちゃいけないのだ。
翌朝に目を覚ますと、美優のスマートフォンにはまたメッセージが表示されていた。早朝と言われる時間帯の受信らしい。
今日は仕事! 限定のやつ、予約しといて。
見慣れたアイコンに微笑みかけ、まかせといてと声に出して言う。熱は下がったのだろうか。お昼休みごろ、こちらからメッセしてみようなんて思いながら。
夕方の伊佐治の二階に、賑やか声が来た。
「誕生日の翌日に免許取った!」
嬉しそうにヘルメットを抱えたリョウが、手袋を買いに来たのだ。
「あ、私も来週誕生日。近いね」
一月も終わり近く、二月一週目の美優の誕生日は、例年通り友人一同が夕食に連れ出してくれるはずだ。女の子だらけだって、寂しくなんかないんだからね!
「じゃ、クロガネさんにプレゼントって言わなきゃね」
「催促なんて浅ましいこと、できませーん。大体、そんな間柄じゃないし」
「……そう? そんな間柄に見えるけど?」
そんな間柄でなんか、ないのだ。確かに友達の中のひとりとしても連絡を取る回数は多いし、一緒に夕食に出たりもしている。けれど、それだけ。
「十六のオツキアイと二十歳過ぎたオツキアイは違うのー。ごはん食べただけでカレカノじゃないよ」
そんなことを言う美優自身、どこからが線引きされるのかは知らない。
「だってさぁ、好きじゃなくたって、やっちゃうヤツっているじゃん? 女ってそれで記念とか絆とかって言うけど、違うよな」
話の流れにギョッとして、思わずリョウの顔を見る。
「彼女と何かあった?」
リョウは確か、同じ年齢の恋人がいたはずだ。お祭りのときに一緒にいた。
「別れた。大事にして大事にしてって言うからチューまでで我慢してたのに、好きなら奪って欲しかったとか言って他の男とやっちゃうの、アリ? しかも相手の男、俺のこと中卒野郎がキモいとかって広げてて」
「広げるって、どこで」
「身内ってSNSで繋がってんじゃん。ガッコーキライでバカなのは本当だけど、ニートしてるわけじゃねえし親に金渡してるし、彼女サンも社会人なんてカッコイイって言ってくれてたのにさ。今じゃドカタなんて一生底辺とか平気で流してさ、彼氏とお泊りとかってコメント出すんだぜ。信じらんねえ」
愚痴っぽく言っているが、リョウの顔はけして暗くない。夏から冬までの間のどのタイミングかは測れないが、その期間に失恋から立ち直りまで済ませたのだろう。
「俺とまだ切れてないのに、男とカラダまで固く結ばれましたとかってさ、俺のアカウントブロックしたって身内バレしてるし。バカはどっちだっていう」
そう言ったあとに、リョウはへらっと笑った。
「バンバン資格とって稼いで、あいつら見返すんだ。職人は学歴じゃなくって腕だって、社長もクロガネさんも言う。バカにバカって言われても痛くも痒くもねえって、クロガネさんが言ってた。俺があいつらより利口になりゃいいんだろ」
ああ、この子は頭が良いのだと、美優は改めて思う。特にティーンネイジャーのうちは他人の価値観に流されてしまう人間は多く、美優もご多聞に漏れない。夏祭りで顔を見た娘は、とても普通の娘に見えた。恋人の生業を貶める人間が周囲に何人もいれば、いつの間にか同調してしまう程度に。
そんな声が聞こえているにも関わらず、リョウの芯は揺らいでいない。自暴自棄になったり流されたりしていない。年下だからといって、侮ってはいけない。
「リョウ君、かっこいい」
つい、声に出た。
「かっこよくないよ、今はペーペーの底辺だし」
照れた顔のリョウが首を振るのは可愛らしい。ちょっと頭でも撫でてみたくなる。出来の良い弟分がいるみたいだ。
客が入ってきて会話は打ち切りになり、偉そうに滔々と他の店の品揃えと比較する言葉を、うんざりしながら聞く。お客様は神様じゃなくて、商品と同等の価値の貨幣を引き換えにする取引だと理解しない人は多く、女の店員じゃ話にならないと舌打ちする人も少なくない。
他人への接し方はいろいろなタイプがいて、考え方も人それぞれだ。通りすがりの人生には無関係な人間だからこそ、小売店の店員には繕った自分を見せたりしない。
陳列されてるわけじゃないけど、いろいろなパターンの人間を知ることができる。展示品は向こうからやって来るのだ。
「おねえちゃん、ありがとうね。また来るね」
売り場を案内しただけで頭を下げる人がいる。
「サイズ揃ってなくて、クソみたいな店だよな」
悪態を吐く人もいる。
「上がり時間だろ? 乗せてってやるよ」
不意に売り場に顔を出した鉄に、思わず赤面してから頷く。そんな間柄に見えるのかなあ。普段から一緒にいるリョウ君から見ても、そう見えるのか。
車に自転車を積み込んでもらい、確かにコーヒーが美味しかった『ユカの紹介してくれた店』に行くだけ。懸念していたユカちゃんは、売出しのときに一緒にいたイケメンさんと夫婦らしい。ふたりで会社を立ち上げるのだと、作業服を引き渡したときに言っていた。早坂をよろしくね、と笑ったユカに、曖昧な返事をしたばかりだ。
数日後の小さいメーカーの合同展示会には、ひとりで赴いた。熱田と日程調整ができなかったので、相談相手はメーカーの担当営業だけだ。一度経験したのだから、今度はひとりでも大丈夫。
とびっきりかっこいい作業服、売り場に用意するから。
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