第18話 距離
朝。
いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ時間に家をでる。
ただ一つだけいつもではないのは、なおとくんが私の家の前に待っていたからだ。
なおと「おはよ」
あかり「おはよ」
挨拶をかわすが、私はなおとくんの目をわかりやすいほどに逸してしまった。
少し早足で歩く。それに追いつこうとなおとくんも私に合わせてくる。
なおと「あの、昨日の事なんだけど」
私は反応してしまい、ピタッと足を止める。
同時になおとくんも足を止めたのがわかった。
なおと「あかり、みてたからちゃんと説明だけしとこうと思って」
あかり「今更何も聞く気はない」
なおと「それでも聞いてほしいんだ」
あかり「そんなの自己満じゃん」
私は少し声を大きくして言ってしまった。
なおとくんはピクっと驚いたが「でも」と話を続けようとした。
なおと「僕はあかりが好きだから、僕からやったりはしてない。それだけわかってもらいたい」
そんな事は知ってる。私は彼を信じてたのだから、わかってる。問題はそこではない。
あかり「なおとくんは私が嫉妬するとか、考えたことある?」
なおと「それはもちろん」
あかり「じゃあ何に嫉妬してて、何に傷ついてるかわかる?」
なおと「えっと…それは…」
私は彼から目線を逸らし、続ける。
あかり「こないだ、立花さんの前でなおとくん私の名前呼び捨てにしようとしたのに、なんで言い直したの?」
なおと「え」
あかり「立花さんに腕掴まれてても、離そうとしてなかったし。それに、昨日だって本当は断ってくれるんじゃないかって思ってた。私、好きな人が話があるって言われて違う女の子と一緒に帰るの放置できるほど心広くないよ。キスしてるところみて平気でいられないよ…」
なおと「あかり…」
あかり「いくらそれがなおとくんからじゃなかったとしても、なおとくんが立花さんを好きじゃなかったとしても、なおとくんと立花さんが一緒にいるだけで不安で仕方ないの」
全部言い切って一粒だけ涙がでる。
それを拭おうとしたのか、なおとくんが私の顔に手を伸ばすが私はそれを払う。
あかり「委員会の仕事あるし、しばらく一緒には帰れなさそうなの。いい機会だから少しだけ距離とろ。ごめんね」
私は走ってその場を去る。
さっきは一粒だけしか流れなかった涙が、今はたくさん流れて止まらない。
あかり「やっぱり恋なんてしないほうが幸せだよ」
学校に着くとすぐにトイレに向かう。
鏡をみると少しだけ目が腫れていたが、そんなに気にならない程度だった。
(この程度なら平気かな)
トイレをでて教室に向かうと、なおとくんが席についていた。しんじくんと会話をしていた。「気まずいな」と思いながらも席につく。
しんじ「おはよ、白井」
あかり「おはよ」
しんじ「あ、そういえば俺体育祭の団長とか初めてやるからよくわからないんだけど、なにすればいいの?」
あかり「あ、えっとねとりあえず今日の集会で色を決めるからその時に前にでてもらうって感じかな!そのあとの事は追々伝えるから」
しんじ「おう、わかった」
あかり「じゃあ私、集会の準備あるからまたね」
私はなおとくんとは一度も顔を合わすことなく教室を出た。
しんじ「あれ、会話した?」
なおと「え」
しんじ「いや、珍しく話してない気がしたから」
少しずつだが、なおとの顔が暗くなっていく気がした。これは何かあったに違いない。
しんじ「ゆうかと1組のやつら呼んだ方がいい?」
なおと「え、なんで?」
しんじ「友達が悩んでる時に、助けないやつはいねえよ。まあそこまで大事にしたくないっていうなら話は別だけど」
なおと「とりあえず聞いてもらってもいいかな?」
なおとは昨日あったことを全て話してくれた。話を聞く限り3組の立花に原因があるような気がするが、なおとのことだから自分が悪いと一方的に責めてるだろう。
なおと「このまま振られちゃうかな…」
しんじ「白井はお前のことそれほど信じてたってわけじゃん」
なおと「え?」
なおとはきょとんとした顔で俺をみてくる。
しんじ「だって、前はお前のことそんなに信頼してるわけじゃなかったじゃん。でも、今は違うってこと。だからこそ、彼女と女友達はちゃんと割り切らねえと」
なおと「割り切る?」
しんじ「ようは態度ってことだよ。なおとは誰にでも優しくするからな。別になおとのその優しい性格にはとやかくは言わねえよ。でも、彼女と女友達への態度はわけないと彼女を不安にさせるだろ」
なおと「僕、それ出来てなかった?」
しんじ「自分でできてないと思うならそうだと思う。俺もゆうかと白井とじゃ、一応変えてるしな」
なおと「そっか…」
なおとはいろいろ考え込んでしまったのか黙ってしまった。
しんじ「まあ、いろいろ考え込んでもこればかりは難しいからな。突然変わることなんてできないし、距離を置いてほしいと言われたんだったらとりあえずはそうしよう。ちょうど体育祭があるんだし、かっこいいとこみせようぜ!」
なおと「うん…」
しんじ「そりゃあ不安だろうけど、白井の手だけは離してやるなよ」
なおと「うん、わかってる」
しんじ「よし、そんじゃあ俺らも体育館いくかー」
島谷「みなさんおはようございます。今日は体育祭の組カラーを決めたいと思います。3年生の代表1人、ステージに上がってきて下さい」
私は島谷くんが話しているあいだに、くじ引きの準備をする。全部で一学年に6クラスあるので赤、黄、緑、橙、桃、紫の色がついた棒が箱の中に入っている。ジャンケンをし、勝ったクラスの代表が順番にくじを引いてく。どうやらうちのクラスは最後になってしまだたようだ。
「おい!しんじ何負けてんだよー!」
「しっかりしろー!」
クラスのしんじくんとわりと仲のいい男子達が声をだしている。個人的には別になりたい色はない。何色でもいいと思っている。
そして、最後から前のクラスが引くとしんじくんは残りの1本を引く。「せーの」と同時に棒の先端をみると、私たちのクラスの色は橙色。ちなみに1組は桃色で、3組は緑色だった。そしてくじを引いた代表に団長としての意気込みを聞き、集会は終わった。後片付けがあるため、実行委員は残らなければいけないと言われたので早く教室に戻りたいため片付けようとした時、ちょうど視界になおとくんが入った。誰かと話してる様子だったが人が壁になっていてよくみえない。すると、話し終わったのかなおとくんは出口へと向かい、話していた人物は私の方へと近寄る。そう、立花さんだった。
立花さん「白井さん、早く片付けて教室戻らないと次の授業遅れるわよ?」
あかり「え、あ、うん。そうだね」
立花さん「あ、もしかしてちょっと気になった?なおとくんと何話してるか、とか?」
あかり「え」
立花さん「あら、図星?白井さんって本当に可愛らしい方ね。なおとくんに今日一緒に帰りましょってお誘いしただけよ」
あかり「そう、なんだ…」
島谷「おい、あやか。片付けちゃんと手伝えよ」
立花さん「あ、ごめんなさい」
島谷「もう他のみんなと一緒にやったよ、次はちゃんとやれよ」
立花さん「もうわかってるわよ!」
島谷「白井さんはもう教室戻っていいよ。あとは俺とあやかがやっておくから。他のみんなももう返しちゃったし」
あかり「わかった、ありがとう」
私は教室に戻ろうと、足を1本出そうとした時だ。
立花さん「白井さん!」
立花さんに呼ばれたので振り向くと彼女は笑顔を浮かべていた。
立花さん「お昼休み、お時間よろしいかしら?お話したい事がありますの」
心臓がドキッとなる。なにか嫌な予感がするし本当は断りたいが、断ってしまったら逃げてしまう気がするので頷く。
立花さん「それじゃあ4限目が終わったら教室行かせていただきますね」
それだけ言うと立花さんは島谷くんのところへ行ってしまった。
私は何となく嫌な予感を胸に体育館をあとにした。
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