第13話 進路と風邪と

ゆうか「はぁ…」


お昼休み、ゆうかは深くため息をついていた。その原因はゆうかの机の上に置いてある1枚の紙が原因だろう。


しんじ「まだだしてなかったのかよ。進路希望調査」

つばさ「これ始業式あたりに配られなかったっけ?」

ゆうか「うん」

つばさ「というか締切すぎてるし」

ゆうか「うん」

たくみ「まあいろいろゆうかも悩んでるんだよな?」

ゆうか「うるさい!あんただってだしてないくせに!!」

たくみ「お、俺はべ、別に…」


3年生の生活が始まり、2週間が経った。

始業式に進路希望調査の紙を配られた。締切は先週までだったはずだが、ゆうかは悩んでいるようでまだ提出してなかった。

私は1年の時から変わらず進学に丸をつけて提出した。


ひなこ「ゆうかちゃん、1年の時は専門行こうかなって言ってなかったっけ?」

つばさ「確かに、そう言ってたね。それはどうしたの?」


ギクッとした顔をして机に伏せてしまった。


ゆうか「大学もいいなーって思ってきた」

しんじ「まあここにいるほとんど大学だしな。たくみは店継ぐんだろ?」

たくみ「そのつもりだけど、自信なくてな」

ゆうか「あかりは?」

あかり「え、私も大学だけど」

ゆうか「あかりは大学で何やりたいの?私そこで悩んでて…」


ハッと気づいた。私は別に何かやりたくて大学に行くわけではない。

私が答えに悩んでいると、昼休みが終わるチャイムが鳴った。1組のつばさとひーちゃんとかずきくんとたくみくんは揃って教室に戻っていった。


次の授業はずっと進路について考えていた。


(私、なにがやりたいんだろ…)


チラッと横をみる。なおとくんが黒板に書いてあることをノートに写してる。見られていることを気づいたのか、私の方を向く。

ちょっとだけ頬を赤くなった気がしたが気のせいかな?


なおと「どうしたの?」

あかり「ううん、帰りに話したいことあるからどこかお店に寄ろ」

なおと「え、あ、うん。わかった!」


私はなおとくんに少し相談してみることにした。


(なおとくんも大学だよね?どの学部行くんだろ)


私はずっと進路について考えていたら授業が終わり、HRも終わっていた。


なおと「あかり?」

あかり「あ、うん。なに?」

なおと「どうした?体調悪い?」

あかり「ううん、そんな事ないよ!」

しんじ「本当か?白井授業中ずっと窓の外みてたじゃん」

あかり「考え事してただけだよ、平気だから!」


2人は心配そうにみてきたが私は「大丈夫」といい、なおとくんの腕を掴み教室をあとにした。


なおと「本当に平気?」

あかり「大丈夫だよ!帰ろ!」


そういい、なおとくんの腕を引く。

私達は3年生になっても一緒に帰っていた。

下駄箱につき、「そういえば」と思い出す。

ずっと彼の腕を引いたままだった。

私は恥ずかしくなって彼の腕から手を離す。


なおと「あかり?」

あかり「あ、いや、なんでも…ない…」

なおと「そんなことないよ、顔赤いし熱でもあるんじゃ…」


なおとくんの手が私のおでこに触れる。

余計顔が熱くなった気がした。

最近彼に触れると無性に恥ずかしくなる。そしてこんな風に赤くなってしまう。

彼は私のこの反応に疑問はないのか。

私は、3年生になる前に気づいてしまった。私がこんな風になる原因を。

でも、彼はきっと気づいてない。そう思っていた。でも、あの日彼は確かに気づいていた…。




なおと「あかり、僕のこと…」

あかり「なおとくん…?」

なおと「あ、いや、なんでもないや!帰ろ!」




確かに気づいていた。でも、気づかないふりをした。それとも自信がなかったのか。

あの日から別になにか変わったわけでもなく、いつも通り会えば話すし、帰りも一緒に帰っている。


なおと「あかり、今日は真っ直ぐ家に帰った方が…」

あかり「本当に体調悪いわけじゃないから、それよりも話したいことあるの。だから、早く行こ」


私は上履きを脱いで靴に履き替える。彼も私を追うように同じ行動をする。


なおと「駅前のファミレスでいい?」

あかり「うん」


彼は私より1歩先に歩く。なぜか彼の手をみてさっきのことを思い出す。


(さっきその手で私のおでこ触ったんだよね…)


私が一番その手で触れてほしかったのは、私の手だった。




体育館

ゆうか「なんかあかり悩んでたな…」

つばさ「え?」

ゆうか「あ、いやなんか悩んでたんだよね。昼休み終わったあたりから」

つばさ「それで話聞いたの?」

ゆうか「聞こうとしたんだけど、さっさとなおとくんと帰っちゃってねー。でも、授業中になおとくんに話したいことあるって言ってたしもしかして恋でもしたかなーなんて思ったり」

つばさ「あかりは一度決めたら曲げないし、それはないんじゃない?確かになおとくんとあかり、最初に比べたら一緒に帰るぐらい仲良くなったけど」

ゆうか「そっか!」

つばさ「てか、部活中なんだから喋ってたら怒られるでしょ!」

ゆうか「はーい」




ファミレス

なおと「話って?」

あかり「今日、昼休みに進路について話してたの覚えてる?」

なおと「うん、あかりは大学でしょ?」

あかり「そう、なんだけど…なおとくんは?」

なおと「僕も大学だよ。一応教師目指してるから教育系の学部だけど、あかりは学部はどこなの?」

あかり「そこなの」

なおと「え?」

あかり「私、やりたいことも無くてただ大学行って、就職してって感じに考えてて…」

なおと「話したいことってそれ?」

あかり「うん」


なおとくんはちょっと期待はずれだったというような表情を一瞬だけしたが、すぐに真面目な顔になり言葉を考えているようだった。


なおと「僕からみての意見だけど、あかりなにか教えることに向いてるなって前に思ったんだ」

あかり「え?」

なおと「面倒見もいいし、教えたりするのもうまいし、僕と同じ教師とかそういうのもありなんじゃないかなって。まあ、僕の意見は聞き流す感じで」

あかり「教師か…。考えたことなかった」

なおと「まあいろいろ悩んだりすると思うけど、僕でよかったらいつでも相談のるから」

あかり「ありがとう」


彼の前では平然を保っているつもりだが、心の中ではそんな事はなかった。今は進路のことだけではなく、彼のことについても悩んでいる。


(本当によく私の事みてくれてるんだ)


嬉しいと心の底から思ってしまった。彼と同じ夢を追いかけるのもまたいいのではと思ってしまった。もちろん、中途半端な気持ちではなく真面目に教師という職業も目指したいと思った。その職業を目指したいと思ったのも、彼のおかげだ。

ふと、目を閉じると心臓の音がドキドキ聞こえる。彼と2人だと尚更よく聞こえる。なぜかだんだん早くなっているような気もする。

私の頬に何かが触れる。目を開けてみれば彼が私の頬を触っていた。


あかり「なおとくん?」


彼は返事はしないが、言いたい事があるようなそんな目線を送ってくる。私が目を逸らさないでいると、彼の口が開く。


なおと「始業式の時に言ったこと覚えてる?」

あかり「え」


始業式の日、私が体育館に向おうとした時のことだろう。彼は私に「今年は去年よりも本気だよ」と言ってきた。私はその時のことを思い出すと、恥ずかしくなり彼から目を逸らす。それと同時に顔も赤くなっていた。


なおと「思いだした?」

あかり「うん」

なおと「あかり」


名前を呼ばれただけでドキッとし、ピクッと動く。恐る恐る彼の方へ目線をむけると真剣な表情をしていた。


なおと「あかり、僕今年は去年よりも本気だからずっと最近気になってることを聞いてもいい?」

あかり「うん」

なおと「もしかしてあかり僕のこと、ちょっと意識してくれてたりする…?」

あかり「え」

なおと「最近の反応とかがちょっと気になって、違うなら別にいいんだ。僕はあかりが僕のこと好きになってくれるまで頑張ろうって思ってるから。よし!じゃあ帰ろうか」


なおとくんは帰る準備をし、レジへ向かう。私はその後を黙ってついてく。なぜかなにも言葉がでてこなかった。お会計を済まし、お店をでるともう空は暗くなっていた。


なおと「暗いし送るよ」

あかり「…」

なおと「あかり?」


なおとくんは私の手に触れようとしたが、私はそれを払ってしまった。


あかり「あ、ごめんなさい。今日はここで平気だから…。また明日ね」


私は走ってその場から逃げるように去った。


なおと「また逃げられちゃったな」




家に着くと、すぐに部屋に籠る。涙が溢れてきた。なおとくんは私の事よくみてくれてて、優しくしてくれて、いつも助けてくれる。私の事を好きと言ってくれる。本当に本当にいい人だ。そんな彼にきっと私も


「惹かれてるはずなのに…」


あの時私はなにも言えなかった。意識してると聞かれたあの時。ちゃんと素直に答えたかったのに、言葉がでてこなかった。そんな自分の情けなさに驚いて、彼の優しさを払ってしまった。おまけにまだ逃げてしまった。


「私って最低だ。本当に情なくて…最低だ…」




-7:00-

目が覚めると朝になっていた。私はあれから泣きながらご飯も食べずに寝てしまったらしい。ササッと学校へ行く準備をし、朝ごはんを食べ家を出る。

学校へ行くとことがとても憂鬱だったが、そんな事を考えていたらいつの間にか教室に着いていた。中にはいるとゆうかとしんじくんが「おはよー」と言ってきたのでそれに返す。隣の席をみるとまだ彼は来てないようだった。


しんじ「なおとになんか用事でもあったのか?」

あかり「え」

しんじ「じーっと席みてたから」

あかり「ううん、まだ来てないんだなーって。いつもなら私より先に来てるから」

しんじ「確かに今日はおせーな」


しんじくんと話しているとゆうかが割り込んできた。


ゆうか「進路希望調査やっとだせたー!」

あかり「結局どうしたの?」

ゆうか「専門にしたよ!美容系のね!」

あかり「そっか、無事にまとまったのならよかった」

ゆうか「うん、あれ?」


ゆうかが私の顔をじーっとみて何かに気づく。


ゆうか「あかり、昨日泣きながら寝たかなんかした?」

あかり「え」

ゆうか「目腫れてるよ」

あかり「え、あー、ちょっと目を疲れることしちゃってそれで腫れちゃっただけ」


無理矢理な説明だったがチャイムが鳴ったことにより、ゆうかの追求を逃れられた。

隣を見るとなおとくんはまだ来ていなかった。


先生「おーい、席つけ。あ、白井」

あかり「はい」

先生「頼みがあってな、今日田村が風邪で休みでな。悪いんだがプリント家まで届けてくれるか?」

あかり「え、でも私家わからないんですが…」

先生「帰りに地図渡すからよろしくな」

あかり「え、あ、はい」


まさか昨日の今日というタイミングで…。しんじくんに頼ろうと後ろを向くと、しんじくんはごめんというポーズをしていた。きっと部活なのだろう。1組の男子2人もきっと部活だろう。今一番会いたくないが、先生に頼まれてしまったので仕方ない。私はなおとくんの家にいく事にした。




放課後

あかり「ここだよね?」


先生からなおとくんの地図をもらい、少し道に迷ったがなんとか彼の家の前まで着く。昨日の今日なので、インターホンが鳴らしづらい…。勇気をだして指をインターホンに近づけようとした時、扉があいた。


なおと「あ、あかり?」

あかり「ぐ、具合どう?プリント、先生に頼まれてもってきたんだけど…」

なおと「ありがとう。入って」

あかり「いいよ、すぐに帰るし」


私は帰ろうとしたが、なおとくんが腕を掴んでくる。


なおと「今日、うち親いなくてなにも食べれてないからお腹すいてて…」


「親いなくて」という言葉にビクッと反応してしまった。ということは2人きりになるという事だ。でも、なおとくんはあまり気にしていないようだった。


なおと「その…なにか作ってもらえたら嬉しいなって思ったんだけど…だめかな?」

あかり「あ、ううん。それなら少しだけお邪魔します」

なおと「ありがとう、入って!」


私は簡単にお粥を作ってあげ、プリントを渡す。


あかり「そんなに重要なプリントはないから大丈夫だよ」

なおと「わざわざ持ってきてくれてありがとう。あ、でも家どうして」

あかり「先生が地図渡してくれて、ちょっと迷ったけどね」

なおと「そっか」

あかり「じゃあ私そろそろ帰るね、お大事にね!」


私が帰る準備をしていると、なおとくんが私の腕を掴む。


なおと「昨日」


私はビクッと反応する。このタイミングでこの話をもってこられるとは…。

私は俯き目をつぶる。なおとくんの言葉を待っていたがなにも言ってこないので、恐る恐る目を開きなおとくんのほうへ向くと彼は「はぁ」とため息をついた。


なおと「そういう反応されると期待するんだよ…。あかりは僕のことあの時ちゃんと振ってくれて、でも僕は諦めないって言った。それからなんとか友達として一緒に帰ったりいろいろして前よりも仲良くはなってるんじゃないかって思ってる。でも、最近はちょっと意識してもらってるんじゃないかって思ってた。昨日逃げられて違うんだなって思った。あかりは恋が嫌いになったんだもんね。昨日はごめん」

あかり「違うの」

なおと「え」

あかり「昨日は確かに逃げた。でもね、嫌いになった訳じゃないよ。ただ言葉がでてこなくて…」


なおとくんは私の話を真剣に聞いてくれている。彼は本当に優しい。でも、私はここからなんて言葉を繋げていいかわからなくて黙ってしまった。


なおと「無理しなくていいよ。僕の風邪うつっちゃうと悪いし、もう帰りなよ。引き止めてごめんね。じゃあ僕部屋でもう休むから。玄関まで送れなくてごめんね。おやすみ」


そう言うと、なおとくんは部屋に入ってしまった。残された私は鞄をもち、なおとくんの家を後にする。


帰り道、ぼーっと先程のことを考えていた。また言葉がでてこなかった。なんでだろうと考えると一つの答えに結びつく。彼に真剣な表情でみられると、私はなにも言えなくなる。それは怖いとかそういうのではなく、とっても胸がドキドキして鼓動が早くなり、緊張してしまう。彼のことを意識してしまう。私はなおとくんのことが好きなんだ。



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