第8話 しんじとゆうか
帰宅途中
なおと「うまくやってるかなー、しんじ」
あかり「大丈夫だと思うけどね」
私となおとくんはしんじくんとゆうかが話せるように2人を残し先に学校を出た。
でも、2人の事がとても気になってしまってすごくそわそわしてしまう。なおとくんも私と同じ様子だった。
プルプル
私の携帯が鳴り、なおとくんと顔を見合わせる。そして画面をみるとゆうかからだった。なおとくんは「どうぞ」と言ってくれたので電話にでる。
あかり「もしもし」
ゆうか「あかり…」
いつもの元気なゆうかとは程遠い声だった。
あかり「どうしたの?」
ゆうか「今どこにいる?」
あかり「今はなおとくんと駅の近くにいるけど…」
ゆうか「今からそっち行くから待ってて」
それだけいうとゆうかは電話を切った。
なおと「安川さん?」
あかり「なんかあったっぽい。これからこっち来るって」
プルプル
今度はなおとくんの携帯が鳴る。
メールだったみたいで、なおとくんは私に見せてきた。送り主はしんじくんだ。
ダメだった。逃げられた。
俺嫌われたわ。どうしよ。
このメールを見ただけで、何があったのかなんとなくわかった。
あかり「とりあえずゆうかに話聞こう。今日のところはこっちに任せてって返事してもらえるかな?」
なおと「わかった」
なおとくんはしんじくんに返事を打っていた。
そしてゆうかが走って来るのが見えた。
ゆうか、と呼ぼうとした時ゆうかは私の胸に飛び込んできた。泣いていた。
とりあえず落ち着かせるために、私はゆうかの背中をさする。それから少し経つとゆうかがやっと顔をみせてくれた。
あかり「大丈夫?」
ゆうか「うん」
なおと「外だと寒いしあのお店に入ろう」
そう言いながらなおとくんは店の方向に指をさす。
私達は近くにあったファミレスに入った。
あかり「どうしたの?しんじくんと何かあった?」
しんじくんの名前を出すと肩がビクッと動いた。それからまたゆうかの目から涙が出た。
ゆうか「告白…された…」
あぁ、しんじくん言えたんだ。私は心の中で「よかった」と思った。でも話はここからだ。ゆうかが泣いてる理由を聞かなければ。
あかり「よかったじゃん」
ゆうか「うん。嬉しかった…。でも、今頃過ぎて…。私…こないだ告白したの。振られたの。それなのに…ひどいよ…」
ゆうかは泣きながら、ゆっくり話していた。
嬉しかった。ゆうかの口からその言葉を聞けたただけで、しんじくんは頑張ったんだな、と私は思った。
なおと「ほんとにひどいよ」
あかり「え」
突然のなおとくんの言葉に私は驚いた。
なおと「安川さんは頑張って自分の気持ちを伝えたのに、しんじは自分の気持ちから逃げたんだよ。それで今更告白って…。ひどすぎるよ」
ゆうか「なおとくん…」
なおと「だから安川さんは逃げてきて正解だったと思う。むしろ嫌いになっても仕方ないと思うよ」
ゆうか「うん。きっと嫌いになれたら楽なんだろうな…」
ゆうかはボソッと呟いた。
そう呟いた後、彼女の目から1つ涙が落ちた。
ゆうか「ちょっとお手洗いいってくるね」
あかり「うん、いってらっしゃい」
そう言い彼女は席をたった。
その間に私はなおとくんに疑問に思ってたことを聞いた。
あかり「なおとくんはてっきりしんじくんの味方かと思ってた」
なおと「え?」
あかり「ひどいよって言った時、驚いちゃった」
なおと「あぁ…。だってしんじはずるいしひどいと思ったし…。でも、2人には幸せになってもらいたいかな。せっかく両想いなのに、悲しい結果に終わってほしくはない」
あかり「それは私も同じ」
なおと「しんじがちゃんとまた安川さんに向き合ってくれるといいんだけどな…」
お手洗い
鏡をみると目が腫れていた。このまま外歩くのは嫌だなーと思いながら、さっきのなおとくんの言葉が頭に過る。
「嫌いになっても仕方ないと思うよ」
そう、嫌いになっても仕方ない。嫌いになった方が楽なはずなのに…。彼のことが嫌いになれない。むしろ、両想いだった事に嬉しくて堪らない自分がいる。単純だな、と考えながら私はお手洗いをでる。
あかり「ゆうか、大丈夫?」
ゆうか「うん、ありがとうあかり。なおとくんもね!」
なおと「いや、僕は全然」
ゆうか「なんかすっきりした。確かにしんじくんはずるいし、ひどいけど…やっぱり好きなんだよね。嫌いになれない。両想いだった事に嬉しくて堪らないの。だから…明日ちゃんとまた話す。」
あかり「無理とかしてない…よね?」
あかりは心配そうに私を見てくる。それに、私は笑顔で返す。
ゆうか「してないよ!私って単純だから!ね!」
私がそう言うとあかりは笑って頷いてくれた。
外を見ると、もう暗くなっていた。「そろそろ帰ろうか」となおとくんの一言で私達はお店をでた。なおとくんは暗いし送ってくって言ってくれたけど、なんだか1人で帰りたい気分だったのであかりを送ってくれるようにお願いした。
明日がとても不安。うまく彼と話すことができるのか…、彼の顔を見ることができるのか…、不安で仕方がない。でも、今度は逃げないでちゃんと話そう。私はそう決めた。
ゆうかとわかれ、私はなおとくんに家まで送ってもらっていた。
ゆうかを1人にするのは不安だったが、お手洗いから帰ってきた時のゆうかの表情は何かを決めたような表情だった。
なおと「安川さん、本当に1人にしてよかったかな?」
あかり「大丈夫だよ。あの表情をしたゆうかならきっとね」
なおと「うん。あ、家もう着いちゃったね」
あかり「送ってくれてありがとう。暗いから気をつけてね」
なおと「うん。じゃあまた明日」
あかり「うん、ばいばい」
私はなおとくんの後ろ姿を見送ってから家に入り、部屋に荷物を置くと携帯が鳴った。
しんじくんからだ。
あかり「もしもし」
しんじ「悪いな、突然電話して。安川のこと気になって」
あかり「ゆうかとはさっきわかれてちゃんと家に帰ったよ」
しんじ「そっか、それならよかったよ。悪いな白井…。いろいろ…」
彼の声はすごく弱々しくて、今にも消えてしまいそうな声だった。
あかり「明日、ゆうかとちゃんと話なね」
しんじ「いや…でも…」
あかり「しんじくん、ゆうかのこと本当に好きならもう逃げるのやめて。ちゃんと向き合って。これ以上ゆうかのこと傷つけたら…私、許さないよ」
しんじ「わかった。いろいろありがとな」
あかり「お礼はうまくいってからね!」
しんじ「おう、じゃあ明日な」
しんじくんも最後はいろいろ覚悟を決めたような声だった。
明日、2人が笑顔になれればいいな。
翌日
-8:00- 学校
私はいつもと同じ時刻に学校へ着いた。
教室に入るとなおとくんはもう来ていたが、しんじくんとゆうかの姿はなかった。
なおと「おはよう!」
あかり「おはよ!2人は?まだ来てない?」
なおと「僕が来る前に安川さんは来てたよ。僕が席についてすぐ後にしんじが教室入ってきたから2人とも来てるよ」
あかり「そっか」
ということは、今2人は話してるということか。すごくそわそわするが、いい結果を待つしかない。
なおと「なんかそわそわしちゃうよね…。しんじ今度は平気かな」
あかり「わかる。昨日しんじくんからあれから電話来てさ、すごく弱々しい声でね…大丈夫かな」
なおとくんも私と同じく2人のことを心配していた。そうこうしてるうちに、チャイムが鳴る。チャイムが鳴ったと同時に2人は走って帰ってきて席についた。HRが終わると私となおとくんは後ろに振り返り2人の方を向く。
2人の表情をみると、お互いすっきりしたようなそんな表情だった。
しんじ「えーっと…とりあえず白井ありがとな。昨日も」
ゆうか「私も、あかりありがとう。なおとくんも話聞いてくれてありがとう。嬉しかった」
なおと「いや、僕は全然」
あかり「私も全然何もしてないよ。それよりまあなんとなく察するけど、ゆうかが泣いてないってことはお互いにちゃんと話せたみたいだね」
しんじ「まあ、そんな感じ」
なおと「でもまあよかったよ。本当に!ん、てことは2人は付き合うことになったの?」
なおとくんが聞くとゆうかは顔を赤くし、しんじくんは照れた表情をしていた。
ゆうか「まあ、そういう事かな!」
なおと「しんじなんて言ったの?」
しんじ「おい!なおと!!」
ゆうか「それは…秘密かな!」
そう言うゆうかの表情はとても幸せそうに笑っていた。
数十分前 屋上前の階段
私が朝来るとしんじくんに話があると言われ、ついて行くとここへ連れて来られた。
この場所は、私が彼に振られた場所だ。
ゆうか「この場所に連れてくるなんて、結構ひどくない?」
しんじ「しょうがねーだろ。ここぐらいしか人こねー場所ねーし」
私が階段の1番上に座ると、しんじくんは私の隣に座る。
ゆうか「話って?」
勇気を振り絞って聞いてみる。
しんじ「ごめんな。いろいろ傷つけて。でも、俺やっぱりお前のこと好きなんだよ。それはどうしても変えられない。昨日逃げられてはっきり言えばショックだったよ」
彼のショックだった、という言葉に私の胸がズキッと痛んだ。
しんじ「だから、今日また逃げられたら諦める。でも、逃げなかったら…」
ゆうか「逃げなかったら…?」
しんじ「お前が俺の事好きになるまで、諦めない」
いつもとは違う真面目な彼。本当に私のことが好きなんだと思う。すごく嬉しくて泣いてしまいそうになる。でも、泣いたら何も話せなくなってしまうので、泣くのを堪えて言う。
ゆうか「逃げないよ。今日はちゃんと向き合うって決めたから。私も話すつもりだったから。だから、逃げないよ」
しんじくんは少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
しんじ「ありがとう」
ゆうか「うん。昨日はごめんね。なんか今更過ぎて…嬉しかったけど、それよりも先に怒りの方が出ちゃって…。今言ってくれたこと、すごく嬉しい。諦めないって言ってくれて本当に嬉しい」
私の目から昨日のようにまた涙が出る。でも、昨日と違うのはそれが嬉し涙だということ。
ゆうか「好きです…。大好きです…。しんじくんのこと嫌いになれないくらいに」
しんじ「抱きしめてもいいか…?」
ゆうか「え…?」
私が返事をする前に、しんじくんは私の事を抱きしめてきた。
しんじ「傷つけてごめんな。俺もお前のこと好きだ。大好きだ。俺と付き合ってくれませんか?」
ゆうか「はい」
夢だと疑ってしまうくらいとても嬉しくて、とても幸せだった。それくらい私は彼の言葉が嬉しかった。
現在 -8:30-
あかり「ゆうか、何ぼーっとしてるの?1限移動だよ」
ゆうか「うん!」
しんじ「どうせなら4人でいこーぜ!」
なおと「しんじは安川さんと行きたいだけだろ」
しんじ「うるせぇ!ゆうかいくぞ!」
ゆうか「わっ!」
しんじくんはゆうかの手を引いて先に行ってしまった。
なおと「なんかほっとしちゃったよ」
あかり「私も、よかったなーって思うよ」
2人とも本当に幸せそうに笑ってて、私はそれがとても嬉しかった。
ゆうか「ねえ、あかり」
ゆうかが私の方に戻ってきた。
あかり「なに?」
ゆうか「あー、ちょっとなおとくんしんじと先に言ってて」
なおと「え、あーうん。じゃあ先に言ってるね。」
そう言うと、なおとくんはしんじくんのほうに走っていった。
あかり「なに?」
ゆうか「私思ったんだけど、確かに恋愛って辛いなって思うこともあるけどそれって相手次第じゃないかなーって」
あかり「相手次第…?」
ゆうか「うん。私もしんじといろいろあってたくさん傷ついたし、傷つけた。でも、しんじだったから今こうやって幸せな結果になったんだと思う。あかり、恋愛って私はいいものだと思うよ」
しんじ「おーい!もうすぐチャイム鳴るから早くしろー!」
ゆうか「うん!あかり行こ!」
あかり「あ、うん」
確かにゆうかとしんじくんをみてると恋愛っていいものって思ってしまう。
でも、自分がするとなるとやっぱり私は恋愛が嫌いだ。それなのに…私の中のなおとくんという存在が、少しずつ友達から変わってるようなそんな気がしたのは気のせいだろうか。
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