第7話 本音
あれからなおとくんと別れて、私は家に着いた。なおとくんが言ってたことは本当なのかな。噂に縁がなかった私は全然知らない話だった。それよりも1年の時あの2人が話してるところなどみたこともなかった。それなのに、なぜそんな噂が流れたのだろうか。
あかり「気になる…」
私は携帯を鞄からとりだし、しんじくんにメールを送ろうしたが、手が止まってしまった。今日の2人の様子も気になるけど、1年近く前の噂のことなんて聞いていいのだろうか…。それになおとくんも本当かはわからないって言ってたし…。そんな事を考えていた時、突然携帯が鳴った。
相手は私が今1番話したいことがある人物だった。
あかり「もしもし?」
しんじ「よっ!突然電話して悪いな」
あかり「大丈夫だよ!それよりもどうしたの?」
しんじ「いや、なんか今日すごい俺のこと見てきた気がしたからー」
あかり「え!?」
しんじ「うそうそ、安川のことみてたんだろ?」
あかり「うん、まあしんじくんのこともみてたけど…2人ってあんなに睨み合うぐらい仲良かったかなってちょっと気になっちゃって…」
正直に思ってたことを話してしまった。
それから少しだけ沈黙があり、しんじくんが話し始めた。
しんじ「白井からみて、安川は俺の事嫌いにみえる?」
あかり「え、うーん、今日の様子からみたら…そう思うかな…」
しんじ「だよな…」
ふと気がつく。そういえばしんじくんはなんで私に電話をかけてきたのか。
あかり「そういえばなんで電話してきたの?」
しんじ「ちょっと話したいことあるから、これからでてこれるか?」
あかり「え、あ、平気だけど」
しんじ「今白井の家の近く来てるから、着いたらインターホン押すわ」
あかり「わかった。じゃあまたあとでね」
話というのはいったいなんだろう…。
ゆうかのことかな?そして10分から経つとインターホンが鳴ったので、扉を開けるとしんじくんがいた。
しんじ「突然悪いな」
あかり「平気だよ。中入って!」
しんじ「玄関でいいよ」
あかり「でも寒いから」
そう言うと私はしんじくんを私の部屋に通した。しんじくんとテーブルを挟み向かい合って座る。
あかり「話っていうのは…?」
しんじ「安川のこと…」
あかり「ゆうか?」
しんじ「聞いたことないか?1年の時に俺の噂」
噂…。きっと今日なおとくんが話してくれたあの噂のことだろう。私は黙って頷く。
しんじ「あれ、ほんと」
あかり「え!?」
驚いた。しんじくんが自分から噂のことを話してきたのもだけど、それを認めたことにも驚いてしまった。ということはゆうかの噂も本当なら2人は両想い…ってこと?
しんじ「でも、あいつには嘘ついたんだ」
あかり「え」
しんじ「安川には俺の好きなやつ、白井って言った」
あかり「え」
しんじ「もちろん嘘。でも、安川はそれを信じてる」
あかり「なんで嘘を…?」
しんじ「こないだ部活の時にちょっと噂を耳にしたんだよ。安川がかずきを好きってさ。でも、俺は1年の頃からあいつのこと好きで軽くショック受けてな…。今までそういう噂聞いたことないから、脈ありかなーって思ってたけど…クリパの時もかずきとよく話してたし納得して諦めようとした。今日の朝、お前と話したところ安川に見られてたらしいぞ」
あかり「え、あの場にゆうかもいたの?」
しんじ「盗み聞きとは悪趣味だよな。白井に相談されて、なおともやるなーって思って俺もなおと見習って本気だすのもいいかなーって思ってたら安川が現れて、安川は俺が白井のことを好きか聞いてきた。その時の俺普通に正直に答えればよかったのに、なんかヤキモチ妬いてほしかったのか白井のことが好きって答えたんだよ。でも安川はかずきのことを好きではなかった。俺が好きだって答えた。内心後悔しかなかった。でも、もう元には戻れない。だから俺は安川の前では白井のことが好きってことにした」
しんじくんの話を聞いていて、2人が両想いだったことにとても嬉しかった。だけど、好きな人に嘘をついたことに後悔してるしんじくんと、本当は両想いなのに振られてしまったゆうかのことを考えると想いあってるのにすれ違ってるなんて勿体ないと思ってしまった。噂が本当ならお互いに1年の頃から好きで、2年生で同じクラスになったことは嬉しかったんじゃないか、席も近くになれて嬉しかったんじゃないか。私は恋愛が嫌いだ。でも、友達の恋愛は応援したい。
あかり「告白しよ」
しんじ「え」
あかり「告白しよ。好きなんでしょ?ゆうかのこと」
しんじ「好きだけど、安川は多分俺の事睨んでくるぐらいだし、もう嫌ってると思うけど…」
あかり「そんな事ないよ。きっとそれもゆうかの愛情だよ」
しんじ「愛…情!?」
少しだけしんじくんの頬が赤くなった気がした。
あかり「両片思いなんて悲しいよ。ゆうかにもしんじくんにも幸せになってほしい。好きな人の気持ち知ってるのに、振ったままでいいの?ゆうかのこと泣かせていいの?」
しんじ「嫌だ」
あかり「じゃあ、告白しよ。それにゆうかのこと泣かせるのは私は許せない。好きな癖に振ったのも許せない。だから、ちゃんと正直になって」
しんじくんは私の言葉に真剣な表情で頷く。外をみるともう真っ暗だった。時計をみると18時は過ぎている。
しんじ「長居して悪いな。帰る。相談のってくれてありがとう。俺頑張るわ」
あかり「うん、応援してる」
しんじくんは帰っていった。
来た時の表情はとても曇っていたが、今は少し晴れた表情をしている。
2人には幸せになってもらいたい。私はそう強く願った。
翌日
朝起きるとしんじくんからメールが来ていた。
昨日はありがとう。
気持ちの整理ついたし、安川に今日正直に話してみる。
私は頑張って、と送信した。
-8:00- 学校
教室に入るとなおとくんとしんじくんが話をしていた。
あかり「おはよ」
なおと「おはよ!」
しんじ「よっ」
しんじくんは少し緊張している面持ちだった。告白する前だしそうなるよね。
でも、いつもぼーっとしておちゃらけてる彼とは大違いだった。そしてなおとくんはしんじくんから全て話を聞いた様子だった。ふと、廊下のほうをみると朝練終わりのゆうかが教室に入ってきたところだった。
ゆうか「あかりおはよー」
あかり「おはよ」
いつもの元気で明るいゆうかだった。
ゆうかの声を聞くとしんじくんはピクッと少し動いた気がした。なおとくんは小声でしんじくんに頑張れ、と言っていた。
決意をしたように、突然しんじくんは立ち上がりゆうかをみる。
しんじ「安川、今日放課後部活ある?」
ゆうか「え、今日は朝練だけだから放課後はないけど…、なにか用事?」
しんじ「話があるから残ってろ」
ゆうか「はー?私はあかりと帰りたいから嫌だー」
ゆうかは私の腕にしがみつきながらそう答える。
私は何とか断ろうと言い訳を探していると、目の前に言い訳にできる人物がいた。
あかり「ごめん、ゆうか!久しぶりに私もゆうかと帰りたいんだけど…、今日はなおとくんと帰る約束してるの!」
なおとくんは驚いた顔をしていたが、目で合わせて、と合図を送るとそうなんだー、と話を合わせてくれた。
ゆうか「2人だけでー?私もいてもよくないー?」
やばい、返す言葉が思いつかない…。頭の中でぐるぐる考えていると、なおとくんが口を開く。
なおと「ぼ、僕があかりさんと2人だけで帰りたいから…安川さんごめんね…」
照れながら言われて、私も恥ずかしくなる。
でも、なおとくんグッジョブ!、と心の中で囁く。
ゆうか「わかりましたー。いいよ、放課後残ってる。あんたは部活ないの?」
しんじ「ああ」
ゆうか「そう、じゃあ帰りながら話しましょ」
しんじ「わかった」
とりあえずひとまずゆうかとしんじくんが話すきっかけが出来たことにほっとした。あとはしんじくん次第だ。
放課後
-16:00- 学校
HRも終わり私はしてもいなかった約束を、最初からしてたということにするためになおとくんと帰る。
あかり「じゃあ、ゆうか。また明日ねー」
ゆうか「うん、またねー」
ちょっと不機嫌ではあったが、付いてこなかったことにほっとした。
なおと「とりあえずは、よかったのかな?」
あかり「多分ね…。あとはしんじくんに任せるしかないし」
しんじくんの告白がうまくいきますように、そう祈りながら私達は学校をあとにした。
教室
ゆうか「それで、話って?」
明らかに不機嫌という顔で俺をみてくる安川がいた。
しんじ「歩きながら話そうぜ。教室じゃまだ人いるし。」
それだけ伝えると俺は歩きだし、教室をでる。後ろを確認すると彼女はちゃんと俺についてくる。横に並ぼうとはしないが。
校門をでようとした時気づく。
しんじ「そういえば…どっち?」
校門をでると駅の方向にいく組と、駅とは反対側にある山の方向にいく組にわかれる。
安川は無言で駅の方を指をさすとそちらに歩き始める。俺は安川に着いてくようにまた歩き始めた。
ゆうか「あんたもこっちなの?」
しんじ「駅の方だからな」
ゆうか「そう。それで話ってなに?私早くすませて帰りたいんだけど」
相変わらず強めの口調で彼女は言う。
都合がいいことに、周りをみると俺達だけしか今は歩いてなかった。このタイミングならいける。
俺は話しやすいように彼女の横に並ぶ。
しんじ「昨日話した事覚えてるか?」
ゆうか「え?」
しんじ「朝の」
そう言うと彼女の足は止まって俯く。そしてまた顔をあげると彼女の顔は真っ赤だった。
ゆうか「ちょっと!その話はあの時終わりにしたはずじゃ…」
しんじ「へぇー、あの時の余裕の態度はなんだったのかなー?今はこんなに真っ赤になってー」
ついいつものようにからかってしまった。彼女はますます顔を赤くし、抗議の目をこちらに向ける。
ゆうか「からかいたいだけなら、あんたと話すことはない」
彼女は怒って足を進める。
彼女を怒らしたままじゃ、せっかくきっかけをつくってくれたなおとと白井に申し訳ない。ここらでちゃんと正直に言いたいことを伝えなければ。
しんじ「ちゃんと話したいことはあるよ。だからちょっと聞けよ」
少し先に歩いてた彼女が足を止め、こちらに向く。
ゆうか「なに?」
しんじ「昨日の朝の事。俺はお前に嘘ついた」
ゆうか「嘘?」
きょとんとした顔で首を傾げて聞いてくる。
呼吸を整え話し始める。
しんじ「あの時、俺は白井のことが好きだって言ったけど嘘だよ」
ゆうか「え?あかりのことが好きなんじゃないの?」
しんじ「違う。確かに白井と俺は仲いいけど、俺は白井に恋愛感情はねーよ。なおとが白井のこと好きって知ってるのに、俺は告白しようなんて思わないし好きにすらならない。まあ元から友達としてしか考えたことないけどな」
ゆうか「じゃあ、なんで私に嘘ついたのよ」
しんじ「恥ずかしい話だけど、好きだったやつに好きなやつがいるって知った。しかも、結構モテるやつで俺の勝ち目なし。噂で聞いた話だから、そんな信憑性もない話を俺は信じたんだよ。そしたらよ…そいつ実は俺の事好きとかいいだして、俺そいつにヤキモチ妬いてほしくて嘘ついたのに…。まじでかっこ悪いよな」
彼女をみると目を丸くし信じられないという顔をしていた。それから徐々に何かを抑える顔をしていたが、抑えられなかったのか彼女の目から涙がでた。
ゆうか「信じられない…。バカ…。嘘つき…」
しんじ「ごめん。謝って許してもらえるとは思ってない。でもごめん」
ゆうか「もう、いい…。あんたの顔なんてみたくない!私にしばらく関わらないで!」
彼女は走って逃げてしまった。
空を見上げると、少しだけ曇ってきてた。もう時期雨が降りそうなそんな予感がした。
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