逆チョコ
紅雪
第1話 ボンボンショコラ
身を切りそうな冷たい風が吹きつける2月。
教室の窓から見える木の枝の葉も全て落ちて寒そうに身を縮めているようにも見える。
そんな中で唯一花を咲かせているのがクラス中の女子たちによるバレンタインの話だ。
「悠貴はどんなチョコが好き?」
「えー、俺はねー、あんまし甘くないやつかな?でも去年、沙羅がくれたクランチのやつ、あれもマジうまかったぜ。」
俺を中心に巻き起こるチョコ談議。
「今年も頑張って作るから、絶対絶対食べてよね。」
「当たり前じゃん。柚奈のつくるスイーツうめぇもん。また、ブラウニーか?好きなんだよなぁ、しっとりしてて最高に。」
もらったチョコと女の子の名前を把握しておくなんて、初歩中の初歩だ。たとえそれが両手いっぱいの紙袋でも抱えきれないほどだったとしても。
俺は自他共に認める端整な顔立ちと明るい性格が功を奏して、名実ともに校内ナンバーワンのプレイボーイを誇っている。
「で、麻咲は何くれるんだよ。お前だけだぞ、去年もおなさけにコアラのチョコ菓子くれただけだったじゃねーか。」
集団のはたで興味なさそうに携帯をいじるポニーテールの少女に声をかけた
「うるさいな。別にいいじゃない。鼻血出るぐらいチョコもらうんでしょ?」
まぁ、そうなんだけど。お前のが一番食べたいだなんて、大勢の美人たちをはために言えるわけがない。
我ながらなんであいつなんだと思うのに、諦めの悪い自分にへどが出る。
思えばはじまりはまだ6歳のことだった。まだ幼稚園の卒園式でもらった麻咲からの手紙で「ずっとすきでした」と告白され、別々の小学校へあがった俺たちがまさかの再開を高校で果たした。
お互いあのころのことなんて「俺のこと覚えてる?」「うん、覚えてるよ。幼稚園一緒だったよね。」と薄っぺらい確認を交わしただけ。そのあとはただひたすらクラスメートとしてのつながりであの手紙の「すき」がライクなのかラブなのか、尋ねる余地はなかった。
よしんば、「ラブ」だったとしてもあれは昔の過ちだから可愛らしい思い出として水に流してくれと言われるのがオチなのではないかと、考えると怖くて聞けない。
そんな調子でもう2年が過ぎてしまったのだった。
あーあ、なにやってんだろ、俺。情けねぇ。
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