第6話 神拳屋
そいつは突然俺たちの町にやってきた。でかいカバンを片手に持って、黒い帽子を身に着けて、その姿はまさに・・・。
「セールスマン?」
朝10時頃、チュウさんの家に一人の訪問客が現れる。
「はい、といってもただのセールスマンじゃございません」
「まさか売るものが人の心とかっていうんじゃ」
チュウは笑顔の黒いセールスマンを思い浮かべる。
「お客さん、漫画と現実をごっちゃにしちゃあいけません。私がお売りするものそれは”わざ”です」
「技?面白そうだ、とりあえず話は聞いてみよう」
「ありがとうございます」
そういうとそいつは気持ち悪いくらい口を横に広げた笑みを浮かべ、靴をぬいで家のリビングまで上がった。そん時一緒にいたのはナナシだけだった。
「で、技ってのはなんだ、匠の技の出刃包丁とかいうオチじゃなぇだろうな、そんなもんいまや電話一本で買える時代だぞ、というか手刀で十分だ」
「お客様ご冗談がお上手で、大丈夫です、きっとお気にめしますよ、特にあなたのような生に貪欲な方はね」
「ナナシ俺ってそうみえるか?」
「多少は」
すると彼はカバンを横に倒し、二つのロックを解除して中身を取り出しちゃぶ台の上に置いた(ちなみ未だこの家はちゃぶ台を使用しております、飯の時もこれを使って食べております)
それはいまでは珍しいカメラのフィルムを入れるケースだった、そしてその中には紫の液体が入っていた。その後男は緑、青、赤と多種多様な色が入ったケースを取り出した。よく見るとそのケースにはテープが貼ってあったそこにはこう書かれていた。
「色素神拳?」
「こっちにはリサイクル、ブルーアイズ、レットアロー神拳と書いてありますね、これはいったい?」
「これが私が販売している商品、技。神拳です」
???
「知っているでしょう北斗神拳に木原神拳、鼻毛神拳などなどこの世にはいろいろな神拳がございます」
「おいお前さっき言ってたよな現実とマンガをごっちゃにしちゃいけないってよう」
「はい、しかしこれは紛れもない現実、リアルでございまーす」
ばかばかしい、しかし興味はある。
「そんな顔をなされてますよぅおきゃくさま」
「うぉ、人の心を読むんじゃねぇ」
「これは失礼」
ナナシがチュウの肩を叩く。
「ちょっとこれ怪しすぎですよ、もしかしたらあぶないドラックとかそういう系統の話かも」
「ああしかし、面白いし単純に気になる」
そう言うとチュウはセールスマンに話かける。
「他の技はないのか?」
「ありますとも~リトマス紙神拳、セーブ神拳、ハッタリ神拳」
「ふむふむなるほど」
(こりゃ買うな)ナナシは諦めた。
一時間後・・・
「うーむどれも面白そうで困る」
「お客様そろそろお時間が・・・」
「んそうか?・・・!!そうだ神拳を作るキットみたいのはないのか?」
「チュウさんさすがにそんな都合のいいものは」
「ありますよ」
まるで漫画だ、都合がいい。
「実は昨日開発した製品でしてね。そうだお客様試しに使ってみてレポートを書いて下さい、ならお代は無料でよろしいです」
「つまりは俺にモルモットになれといいぜ」
「ありがとうございます、作り方等は説明書のほうに記載しておりますのでではよろしくおねがいいたします」
「そういえばあんた名前はなんていうんだ」
「えっ!あっ!もうし遅れました私こういうものです、ではしつれい」
彼は名刺を二人に手渡すと風のように去っていった。
「風と共に去りぬ、かっ、えっと”売り 益三”(うり ますぞう)か、こりゃ商売をするために生まれたような名前だな」
「そうですね、でチュウさんはどんな技や神拳を作るつもりで」
「そうだな頭の中で考えたことが現実になる神拳そう ”自分流神拳”だな」
「なんですかそれ」
「こういうのは子供が考えたみたいな単純だけど純粋で万能なものがいいって師匠が言ってた。穴はいっぱいあるけどその穴を埋めることができるんだとよ、子供の浅知恵ってやつはよう」
こうしてチュウは自分流神拳を作ることを始めた。
・
それから大体3時間後
「できたーーーーー」
「はやっ」
「これで俺の生活は万能かつ充実したものになる」
(やっぱり生に貪欲)
「ん?」
するとチュウさんはつけっぱなしにしていたテレビのある画面が目に入った。(というかテレビの片手間に完成させたのか)見るとそこには、
「本日午後14時、インチキな商品をセールスしていた男、売り益三、年齢不詳を逮捕・・・」
「・・・・・」
という訳だ。
「でもそれじゃあその神拳もインチキだったんじゃないのか?」
「いままでのことを見てきてまだ信じられないか」
「ちょっと現実とかけ離れててな」
あのあと幼児化した俺達は無事に放送を終え、チュウの”出戻り光線”によって元の姿に戻った。
「まっ今日は久々に平和に済んだんだどっか食いに行こうぜ」
「いや俺の日常は全然平和じゃなくなっていくんだが・・・」
つづく
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