第6話 星空と私

 昨日はあんなことを考えてしまったから彼女と顔をあわせるのがなんとなく申し訳なかった。もちろんそんなことを彼女は知る由もないのでいつも通り通常運転で飄々としていた。私があんなことを言うまでは。


 「どんな人が好きなの?」


彼女は前髪が長く私よりいくらか背が高いので表情を伺うことはできないので、私は歩くのが早い彼女に遅れないようにひたすら歩くことに集中した。

もちろん気になって仕方がないそぶりを見せないように。

 「君のこと考えてたよ。いけない、かな?」



まるで水の中に落ちたように周りの音が反響した。

この世界には私たちしかいない。

そう感じるほど私の体は彼女で一杯になった。


顔を上げると彼女の瞳が濡れていた。眉間は近づき、唇は震えていた。

彼女はずっと孤独だったのだ。一人の世界でずっと。

なぜそうしていたのかわかった気がする。

だから私は選んだ。


 「ありがとう。」


彼女の茶色がかった瞳がよく見えるように私は彼女の首の後ろに手を回した。

ヒールを履いていた彼女は驚いたように、でも降参したように屈んで私に近づいた。


 「どうしてそんなことを言うの?」

 「意外と意地悪なのね。」

 「それはずっと前からだよ。」

 「口震えてるよ。」

 「君だって」


唇が触れるか触れないかの距離で彼女は

 


 「もうもどれないよ。それでもいいの。」


と独り言のように囁いた。まだ彼女の唇は震えていた。

このままでは彼女は壊れてしまいそうだった。


 「いいの。」


そう言って彼女の吐息を押し戻すように口づけをした。

何度もなんども私は口づけをした。

私の首元に彼女の荒い息がかかる。

温かいものが首筋を伝った。


 「もうダメかも」


今にも溶け出しそうな彼女の甘い声は優しく私を溶かして行った。


 


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夕暮れと星空 篠崎啓斗 @violetdusk

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